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第98話
日常業務に加え社員旅行のプランニング。
やることが一気に増えて時間があっという間に過ぎて行く。
渋澤が勝手に計画した下見旅行の日は直ぐにやってきた。
待ち合わせ場所は東京駅の八重洲中央口改札。
「笹本さーん、こっちこっちー」
改札の手前で私服に身を包んだ渋澤が、まるでイヌが尻尾を振るみたいにぶんぶんと腕を振ってみせる。
その隣には小泉もいた。
何だかんだと笹本のことでは対立している2人だが、渋澤が誘ってあげたのだろうか。
笹本は私服になると途端学生のような幼い出で立ちで、そこにも眼鏡とマスクは忘れない。
「おはようございます」
「おはよう。小泉も行くの?」
「ダメですか?仲間はずれにしないでくださいよぅ」
「いや、ダメじゃないけど。渋澤が誘ったの?」
「誘ってないです。俺は笹本さんと2人でしっぽり大人の旅を楽しみたかったんですけどね」
「下見に行くって話がどうなったのか俺が渋澤さんに聞き出したんです。それに俺も笹本さんの仕事が手伝えたらって思って」
「それに小泉だけ除け者にしたら俺の株が下がるかと思って」
渋澤が小泉の言葉の真似をしながらふざけて頬を膨らます。
─いやそれはもう落ちるとこまで落ちてるよ?
なんて正直な奴なんだと感心すらしてしまいそうだが、小泉が同行してくれるのはありがたい。
小泉目当ての女子社員が多くいるということは小泉に旅先のアピールをしてもらえば効果が上がる。
「ともかく色々と準備してくれてありがとう。僕一人じゃ不安だったから一緒に来てもらえると心強いよ」
笹本が本音を漏らすと渋澤と小泉が安心したように頬を緩ませた。
「じゃあ行きましょう」
「俺荷物持ちますよ?」
「いや、いいよ。重くないから大丈夫」
一人で下見となると責任の2文字が重く伸し掛かり楽しさも半減だが、この時の笹本は嫌がらせにも近いことを2人にされたのも忘れ、半ば学生気分で下見旅行へと出発したのだった。
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