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第100話
渋澤はさらっと恥ずかしいことを言ってのける。
それがまたこれまでの渋澤の様子から嘘を言っているとも思えず、どうあしらえばいいのか分からなくなる。
「渋澤さんが口説いてるとこ悪いんですが、笹本さん、ここには俺達しかいないことですし、マスクと眼鏡は外したらどうでしょう。ただでさえ湿気でじめじめした空気だし、蒸し暑くないですか」
「うん……、そうだな」
若干むすっとした表情の小泉にそう言われ確かに蒸し暑いと思い、笹本がマスクと眼鏡を外し終えると渋澤と小泉の2人がじっと笹本を凝視していた。
「な、何……」
「やっぱ可愛い」
「ですね……」
渋澤と小泉の熱い視線。その視線が何なのか、鈍い笹本でも流石に学習済みだ。
人気のない研修所でまさか自分を襲う気じゃないだろうなと瞬時に警戒心を張り巡らせたが、研修所の鍵は持っていない為そんな危険は恐らくない。
笹本が2人を見比べるようにして右へ左へ視線を走らせる。
すると渋澤がふいっと先に視線を逸らした。
「研修所から宿泊先まではバスを借りるのがいいかもしれないっすね。つうかそれしか選択肢がない」
「あ、そうですね。バス会社と研修時の弁当屋だったら俺の方でわかるので、休み明けに会社で資料渡せます」
「うん。ありがとう」
2人とは一瞬変な雰囲気になったが、その後は歩きながら笹本と一緒になってきちんと周辺をリサーチしてくれた。コンビニくらいしかなかったわけだけど。
その後歩いて戻るには距離があったのでバスを使って大通りへ戻り、いくつかピックアップしておいた宿泊先へと足を伸ばした。
温泉地ということもあり、温泉だけの利用も可能だったり、食事だけの利用も可能だったりで、実際宿の中へ入って雰囲気を確かめることもできた。
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