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第104話
笹本が良いも悪いも言わないうちに、あれよあれよとベッドは動かされ、あっと言う間に成人男性3人が余裕で寝ころべそうな幅のベッドが出来上がった。
「これでよしと。そんじゃルームサービス取りましょう」
渋澤が机に置いてあったルームサービスのメニューを手にとりベッドの縁へ腰かける。
小泉は腰をかがめてそれを覗き込んでいる。
「俺カレー食べたい気分なんですよね」
「ここまできてカレーはねぇだろ。せっかくだからホテルのおすすめ食えよ。俺は刺身御前ってやつにしよっかな~」
「別にカレーでもいいじゃないですか。だったら渋澤さんもホテルのおすすめにしてくださいよ。ねぇ笹本さん」
「あ……うん」
─いいのかこれで。気にしているのは僕だけ?自意識過剰ってやつか?
2人はベッドをくっつけた瞬間に上機嫌になり、いつもよりも親しそうですらある。
まさかここまできてこの2人に体をいいようにされるとも思えず、笹本もこれでいいのかもしれないと思うことにした。
「笹本さんは?」
渋澤が悪人面をにこりと崩して微笑みながらメニューを笹本へと向ける。
笹本はそれを受け取り、何気なく渋澤の隣にちょこんと腰を下ろした。
「これ、前に渋澤と食べたハンバーガーに似てる。2900円?あれ、高くない?」
ぺらぺらとメニューを捲ってランチメニューのところで手を止めた。
以前渋澤と食べたハンバーガーセットによく似ているが、ボリュームを考えても値段はこちらの方が大分高い。
「ホテルのルームサービスなんてこんなもんですよ。パスタなんかはどれも2500円超えだしこの和牛のステーキなんて13000円すよ」
「うわっ、まじか。コンビニで飯も買ってくれば良かった。選択ミスったかぁ……。でももう外に買いに行く元気、僕にはない」
笹本はメニューを持ったまま後ろへ倒れた。
自分の仕事での下見に自費で付き合わせ、ビジネスホテルで出費を抑えることにしたにも拘わらず、別の所でまた負担を増やすのは申し訳ないとしか笹本には思えなかった。
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