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第106話

「ん……?」 渋澤の視線をなぞって笹本も自分の足元へと目をやる。 するとそこには一枚の写真が落ちていた。 L判サイズの写真を半分に切り取ったような大きさだ。 つい今しがた小泉が財布を出して笹本から受け取った金を仕舞う際に落としたのだろうと推測できる。 笹本はそれを拾ってじっと眺めた。 「小泉が落としたのかな?……何の写真だろ。学生時代のかな」 みんな服装も表情も若々しく今時だ。 大学時代のサークル仲間と撮った写真だと言われれば納得できる感じだった。 しかしその写真に、当の小泉は見当たらない。その変わり、見知った人物を見つけて笹本が息を飲んだ。 渋澤によく似た人物が後方で大きく両手を上げてピースサインしている。 どくん─と突然訪れた謎の動悸。 笹本の心臓が小泉の秘密を見てしまったかのように、急激にどくどくと大きな音を立てて鼓動する。 鼓動と一緒に写真を持つ手も震えた。 「……」 笹本は無意識にその写真とフライングビール中の渋澤を交互に見遣り、渋澤だよなと確認すると共に、渋澤には見せない方がいいのかもしれないと機転を利かせ、その写真を素早く尻ポケットに仕舞い込んだ。 「ん?どうかしました?」 「や、なんでもない。僕から写真返しておくよ」 渋澤は「はぁ」と返事をして再び缶ビールをぐいっと煽った。 「僕も喉乾いたな……」 「笹本さんも飲んじゃいましょうよ。どれにしますか?」 渋澤がにかっと笑ってがさごそとコンビニの袋を開いて見せる。 チューハイやらビールやらが雑多に袋の中で転がった。 聞いたことがないけれど、2人は元々知り合いだったのだろうか。 しかし只の知り合いの写真など持ち歩く筈がない。

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