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第111話
今度は自分が買ってきた缶ビールを開けて、またぐいっと煽る。
何が真実なのかわからないまま想像は大きく膨らみ、飲まなきゃやってられない程居心地が悪かった。
「笹本さん、弁当先に食った方がいいですよ。悪酔いしますよ」
「まだ二本目だぞ。大丈夫だって。それより小泉から弁当受け取ってやったら?」
渋澤の悪人面が心配そうにこっちを見ている。
そんな渋澤と笹本のやり取りを小泉が見ていて、テーブルの上に置いたコンビニの袋に手を伸ばし中身を取ろうとしていたのだろうが、動きがそこで止まっている。
口には出せないが、心配ならば小泉を心配してやってくれと笹本は思った。
好きな人が自分以外の誰かと親しそうにしているのは嫌だな思う人もいるだろう。
寂しいと感じる人だっていると思う。
目の前にいる小泉の表情は、まさにそれ。耳と尻尾を下に垂らした犬のように、寂しそうな表情だった。
笹本が渋澤に小泉のことを振ると、小泉は何かを思い出したようにはっとして、コンビニの袋から弁当を取り出した。
「渋澤さんはこれです。冷やしラーメン。うどんとかそばもありましたけど、なんとなく渋澤さんはラーメンかなと」
「おー、俺の好みよく知ってんな。サンキュー」
小泉は渋澤の食の好みまで把握している。それに対する渋澤の返事は演技なのだろうか。
本当だったら互いの好みを互いが熟知している仲なのに、自分がここにいるせいで2人とも本当の自分を曝け出すことが出来ずにいるのかもしれない。
この旅行も小泉が無理に付いてきた理由が今ならわかる。
自分と渋澤の2人きりの旅行を阻止するためだ。
─なんならこの部屋を2人に明け渡し、僕だけ終電で帰ったっていい。
間違いなく自分は今邪魔者だ、と笹本は思った。
「いえ。それから笹本さんはどっちがいいですか?カツ丼か牛丼」
「……」
「笹本さん?笹本さーん」
「……あ、ごめん。ぼうっとしてた。じゃあ僕牛丼もらってもいい?」
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