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第112話
「もちろん、どうぞ。ちょっと熱いので気を付けてくださいね」
小泉がにこりと柔らかく微笑みながら袋から取り出した牛丼を笹本に手渡す。
「ありがとう」
「いえいえ」
小泉の表情からは、笹本を煙たがる様子は見られない。
渋澤のように感情を安易に表に出すタイプとは違うということか。
小泉は笹本がじっと小泉を観察するように見ていることに気付いたのか、はにかんだ笑顔を見せた。
「あ、そうだ笹本さん。お釣り結構あったのでやっぱり返します」
「いいって。疲れてる中、買い出し行ってくれたんだし、ね」
釣りはいらないと一度言ってしまった手前、先輩としての小さなプライドが邪魔をして、ああそうですかと受け取る訳にはいかなかった。
「じゃあ小銭だけもらいますよ」
「いや、だからいいって」
そんなやり取りをしているうちに、財布の中を覗いていた小泉の顔色がさっと変わった。
「すいません。俺落とし物したかもしれないです。ちょっとコンビニまでの道、見てきます」
「小泉何を落としたの?俺達も探すよ。渋澤も一緒に……」
「いや、いいです!……あ、いや、大したものじゃないので。お2人は先食べててください」
慌てた様子で小泉が部屋を出て行った。
閉まるドアを見て笹本が気付いた。
─あ……!落とし物って、もしかしてあの写真のことか。そうだよな……。
どうしたらいいのだろう。
あの写真は未だ笹本のジーンズのポケットに入っている。
「……」
皆が寝静まってからこっそり戻すか?
でもどこへ?流石に他人の財布を勝手に開けて、中へ戻すなんてことは笹本には出来そうになかった。
だったら小泉の目が届くところへ落とし物を装って置いておくか?
あぁでもない、こうでもないと、あの写真をどうやって小泉に返すか画策している笹本の横で、ずずーっと渋澤が冷やしラーメンをすすった。
「あいつ、めっちゃ慌ててませんでした?何落としたんだろ。すげぇ気になりません?」
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