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第113話
─お前の写真だよ!!
笹本は心で渋澤に鋭いツッコミを入れてみるが、本当のことなど話せる筈もなく、手に持つ牛丼へと視線を落とした。
「ていうか笹本さんもどうしたんですか?何か、変っすよ。シャワー浴びに行った辺りから変です。まさか俺に襲われるかもって警戒してます?」
「してないよ」
笹本は即答する。
だって渋澤が襲いたいのは小泉で、もしくは逆に襲われ待ちだろう。
「えーっ、ちょっとは警戒してくださいよ。俺今日はいやらしいことをしないって心に決めてきましたけど、小泉は隙があれば触るくらいはしてくると思いますよ」
─そりゃあ好きな人が側にいれば、触りたいって思うだろう。やっぱり僕は邪魔者だということなのか。
「僕……帰った方がいいかな」
「はい?」
牛丼を持つ手にぽたりと、水滴が落ちる。
垂れてくる鼻水を啜ると、ずずっと音がして、自分が何故か涙を流してしまったことに気が付いた。
笹本は牛丼を持つ手を一つ外して浴衣の袂を手に取り、それで目元を拭う。
同時に渋澤のラーメンを啜る音も止んだ。
「……何で泣いてんですか。あいつに何かされました?」
「いや別に。ちょっと悲しいこと思い出して……」
悲しいことなんて何もない。
何もない筈……だ。
笹本の頭は渋澤と小泉の仲を変に邪推した想像で膨れ上がっている。
この2人がそういう仲だったら?とか。本当は好き合う者同士なんじゃないか?とか。
この想像で自分がどうして涙を流さなくてはいけないのか、全然わからない。
「笹本さん、ごめん。何もしないって言ったけど、目の前で泣かれたら無理だわ」
「……っ」
不意にぐいっと腕を引かれ、笹本は牛丼を持ったまま渋澤の胸へと引き込まれ抱き締められた。
まだ着替えてもいない渋澤のボーダーのカットソーから柔軟剤の香りと汗の匂いがした。
けれどそれは決して嫌な匂いではなく、どこかほっとするような笹本が落ち着く匂いだった。
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