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第115話

渋澤の腕から抜け出した笹本は、持ったままだった牛丼をテーブルに置き、畳んでおいた自分のジーンズのポケットから件の写真を取りだし、渋澤へそっと手渡した。 「これ」 渋澤はその写真を受け取り、暫く無言で眺めると思い切り眉間に皺を寄せた。 「……ここに写ってんの俺ですね」 「そうだよね。それは僕も気付いた。それは何の写真なの?」 「これ、学生時代のサークルメンバーで撮った写真すね。フットサルサークル」 「そうなんだ。通りで。学生っぽいなって思った」 「気味わりーな。なんで俺が写ってる写真持ってんだよあいつ」 渋澤の様子から、この2人が過去に付き合っていたかもしれないという推測は恐らく違うとわかる。 渋澤は物事を変に隠し立てするような性格じゃない。寧ろもっと自重してくれと言いたくなることの方が多いオープンな性格だ。 「出身校が一緒ということはないの?サークルメンバーの中に実は小泉がいたとか」 「えー。出身校?あいつの出身校なんて知らないし、それにサークルメンバーに小泉という名前は……。あれ、……いたかな。いたかもしれない」 渋澤がうーんと唸りながら再び写真に目を落とす。 渋澤は黙ったまま、眉間の皺を更に深く寄せた。 「……」 「そろそろ小泉戻ってきそうだ。この写真、僕らの目に触れないところへ置いて小泉に返そうと思うんだけど……」 「わかりました」 渋澤は写真をソファの下へすっと入れる。 小泉が気付かなければ、笹本が何か落ちてるぞと声を上げるという段取りまで立てて、落とし物を装うことにした。 「それで笹本さんは何で泣いてたんですか」 「そっ、それは……。もしかしたら好きな人の写真を持ち歩いていたのかもって……そう思って……」 笹本はそう答えながらかぁっと熱が頬に上ってくるのを抑えられなかった。 「小泉にもし好きな人がいたら、そんな風に泣くくらい悲しかったってこと?」

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