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第116話

「違うよ、そうじゃない」 渋澤に冷めたような声で問われ、笹本は首を横に振って即座に否定した。 「違うんだったら泣く必要ないでしょ……。え、ちょっと待って」 そこまで言って渋澤が言葉を止め、口元を手で覆う。 みるみるうちに渋澤の首が、耳が、頬までが赤くなっていく。 それを見ていた笹本にもその熱が伝染し、頬がかぁっと熱くなった。 「ご、誤解するなよな!もし渋澤と小泉が過去に付き合っていたとして、寄りを戻すために僕が間に挟まれていたのかなって考えたら、後輩にいいように使われてあまりにも情けないなって……」 「本当に?」 「……」 渋澤は口元を押さえたまま赤い顔で目線を笹本へ向けた。 本当のことなど言える筈がない。 渋澤と小泉の2人が付き合ってたのかもと想像して悲しくなり、自分じゃ到底小泉には敵わないと自分自身を貶め気持ちが下へ下へと沈んでいったなんて。 しかもこの気持ちが漠然とし過ぎていて、笹本の口からは上手く説明できそうにない。 どうしていいのかわからずに、笹本はじっと潤んだ目で渋澤を見つめながら下唇をきゅっと噛んだ。 「はーっ、まぁいいや。後で本当のこと教えてくださいね」 渋澤の手が伸びてきて、笹本の頭をぽんぽんと撫でていった。 「それにしてもあいつ何考えてんのかわかんないし気味が悪い。笹本さん、あまりあいつに心を開いちゃだめですよ」 「……うん」 渋澤だけでなく小泉だって、笹本からすれば一後輩であり自分を慕ってくれる一人だ。 自分の写真を持ち歩かれているわけでもないし、警戒すべきは渋澤の方なのでは?と思ったが、笹本は頷くに留めた。 こんなに近くに2人がいるのだから、自分がしっかり見ていてあげればよいのだ。 笹本は自分が2人を守ってあげなくてはいけないのだと、取りとめもなくそう思った。

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