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第117話
2人にはラブホテルに連れ込まれ憤慨してもいいほどなことをされたというのに、結局嫌いになれないし、小泉の写真を見てからは事が丸く収まればいいと願ってしまったのも事実。
自分の気持ちに向き合うことより、今は小泉が心配だった。
あの写真が一体何なのか、どんな意図があって渋澤の近くにいるのか。
自分に性的な目を向けるのは一体何故なのか。
そこには笹本と小泉の知る共通した人間、渋澤が関わっているのだろうと頭の片隅で考える。
「……牛丼食べる?」
笹本が何気なく視界に入った牛丼を見ながら渋澤に言った。
「ちゃんと食べないと夜中に腹減りますよ。俺ラーメンあるんで……って伸びてるー」
渋澤は割り箸で「げー」と言いながら麺を摘まんで容器の中から持ち上げた。
渋澤があの写真と持ち主である小泉とを関連付ける何かに気付いたか否かもわからない。
笹本の不埒な想像はどうやら違うとわかっても、胸の靄は晴れることなく食欲も一気に落ちてしまった。
とても牛丼を食べる気にはなれない。
「じゃあ牛丼半分こしましょーよ。俺のラーメン汁吸って美味くなさそうなんで」
麺を摘まんだ箸を高く上げ渋澤が変顔をして見せる。
笹本は「しょうがないな」と牛丼半分この提案に乗ることにした。
笹本が先に牛丼に箸をつけ、半分ことは言ったものの実際には3分の1程度しか食べれず、すぐ渋澤に残りを手渡した。
「戻りました」
渋澤が牛丼を頬張っている最中に小泉が暗い顔で部屋へ戻り、牛丼を食べる渋澤を見て「あ!」と声を上げた。
「んだよ、うるせーな」
「ちょっとそれ!笹本さんの牛丼じゃないですか!何で渋澤さんが食べてるんですか!ただでさえ笹本さん華奢なのに」
小泉は「信じられない」と強い口調で渋澤を咎める。
「いいんだ小泉。僕先にお酒飲み過ぎてお腹膨れたみたいであんまり食べられなかったから、渋澤には残りをあげたんだ」
「そうなんですか」
「うん。折角買ってきてもらったのに悪いな。でも美味しかったよ」
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