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第118話
小泉は笹本をじっと見ている。
「泣きました……?」
「え、いや、泣いてないよ。なんで?」
「違うならいいんです。よかった」
涙の痕が頬に付いていやしないかと笹本がさり気無く頬を擦る。
小泉は笹本の言葉を聞いて安心したように頬を緩ませた。
「それより探し物は見つかったのかよ」
もごもごと牛丼を咀嚼しながら言う渋澤を見て、小泉があからさまに顔を顰めた。
「飲み込んでから喋ってくださいよ。……探し物は見つかりませんでした」
「何失くしたんだよ」
渋澤が素知らぬ振りをして小泉から何か情報を引き出そうとしているのがわかった。
この男は元々強引だし危険を顧みないようなところもある。
ただでさえ2人の間には常にピリピリとした空気が漂っているのだから、ここで渋澤と小泉がぶつかるようなことになれば……と。
あり得ないだろうが笹本は2人が取っ組み合いのケンカをしている場面を頭に思い浮かべた。
─こんな大の大人の男がホテルの一室で取っ組み合いはまずいだろ。警察なんか呼ばれたら大変だ。
焦った笹本は急にきょろきょろと辺りを見回し、ソファの下へと目線を向けた。
「あっ、あれ?あれぇ?……小泉、あれ、何かなぁ?」
「え、何ですか」
「いやだからあれだよ。ソファーの下に落ちてるの。何だろう?写真かなぁ?僕の目には写真に見えるなぁ。あんなのここに来た時、なかったよねぇ、渋澤?」
笹本から同意を求められた渋澤は溜息を吐きながら額に手を当てている。
「そうっすね」
「あれは小泉の探してる物とは違う?」
「……」
小泉は声を発することなくソファの下へと腕を伸ばし、例の写真を手に取った。
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