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第125話
「何で?僕だって一人の血が通った人間だ。その気がないのに口説かれたって、僕の心は1ミリだって動かない。よく考えて。小泉がしようとしていることは、はっきり言って無意味だよ」
最早小泉の言うことは理解不能だ。
心が1ミリも動かないと言ってしまったが、正直なところ小泉のあの顔で優しくされれば胸の鼓動が速くなることもある。
しかしそうとでも言わなければ、小泉は自分がやろうとしていることの虚しさに気付かないまま、渋澤と果たし合うという奇行に走ってしまうのではないか。
そんなの悲しすぎる。
小泉にはもっと明るい未来を歩んでもらいたい。
笹本は自分の思いがどうか伝わるようにと、祈るような気持ちで小泉を見詰めた。
すると小泉が、「そうじゃない」と首を横に振る。
「どういうこと……」
「お前いい加減にしろよ。笹本さんに対して失礼だろ。お前のしようとしてることは、正攻法でも真っ向勝負でもないんだって自覚しろ!」
「俺は!」
渋澤が声を荒げる。
その声を圧する程の声量で小泉が渋澤の言葉の語尾に被せるようにして声を上げた。
淡々と感情を圧し殺した喋り方の小泉はもうそこにはいない。
小泉がぷるぷると肩を震わせながら、たちまち顔から首まで赤く染まっていく。
「俺は、笹本さんのことが、本当に好きになってしまったんです!」
しん……と静まり返った部屋の中、おかしな間が空き、
「えぇ……」
「えー……」
まさかの展開に笹本と渋澤は声を揃える。
「……自分のしでかしたことがどんなに滑稽で惨めでみっともないかってことくらいわかります……。自分が劣っていたから、あの時鈴木さんを振り向かせることができなかったのもわかってます。……悔しかったです。凄く。だから始めは、渋澤さんを負かしてやろうって……、そんな気持ちでいっぱいでした。でも次第に、笹本さんは可愛くて、無茶苦茶をする渋澤さんから守るべき対象に移っていったんです」
真っ赤な顔をして小泉が告白する。
恐らくこれが小泉の隠していた全て。
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