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第127話

2人に隠していた最大の嘘。 これは話さなくてはいけないだろう。この期に及んで隠すのは、卑怯な気さえしてくる。 「僕、今までまともに恋愛なんて経験したことがなくて、理想と夢は素敵な女性といつか恋愛することだったんだけど、実は……その……、最近女性じゃなくてもいいのかなって思い始めて……。ていうのも元々僕、あまり女性が得意じゃなくて……」 今まで自分で蓋をしていたところを渋澤にこじ開けられて、どうしても認めることができなかった自分の本性。 口にしてしまったらもう後戻りできないとしか考えられず、渋澤と小泉の顔を見て話すことはできなかった。 笹本はどこへ置いたらいいのかわからない視線を缶ビールの飲み口へと定める。 「言ってしまったら自分も認めるしかないだろう。だから怖くて言えなかったんだけど、僕は、男の人とも付き合える……みたい……」 ─……言った!とうとう言っちゃった! 言うなれば笹本の最大の秘密。それを吐露することで胸のつかえが取れたように思えた。 これで良かったんだと思うと同時に、本当に良かったのか?という疑問と不安も広がる。 笹本の告白を聞いた2人はきっと何らかのリアクションを直ぐに返してくれるのではないかと思っていたのに、部屋の中がしんと静まり返っているからだ。 バクバクと音を立てる心臓を缶ビールを持つ手で押さえるようにして、笹本は恐る恐る顔を上げた。 「……?」 もしかして2人はこの隠し事について怒っているのかもしれないという気さえした。 しかしそんなことは杞憂に過ぎないと直ぐに気付く。 「なんすか今更。そんなこと知ってますよ!青い顔して何言うのかと思ったらそんなこと」 渋澤には吐き捨てるように「そんなこと」と言われ、小泉に至っては困ったような顔で微笑まれた。

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