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第133話
渋澤にちょっと持ち上げられただけなのに、その気になって自主的にリサーチしに行った結果がこれなのだから仕方ないじゃないかと思うと同時に始めから何も期待されていなかったのだと解り大いに落胆した。
それもこれも、今までだって、所詮は目立たない日陰の平社員なのだから仕方のないことだ。
笹本は腕時計で時間を確認し、ベンチの上に横たわった。
暑いけれど木陰だし、時折吹く風は意外と心地いいので寝れなくはない。
スマホでアラームを10分設定し、ほんの少しだけ昼寝することにした。
日頃の疲れがこの頃一気に出てきたのか、目を瞑るとすぐに睡魔が訪れる。
笹本がうとうとと微睡んでいたら首筋にひんやりとした感触があり、反射的にぱちっと瞼が開いた。
「つめたっ……」
「こんなとこで寝たら熱中症で死にますよ」
「渋澤……」
笹本を覗き込んでいたのは渋澤だった。クールビズだというのにこいつはネクタイを緩くしめて肩にひっかけている。
渋澤が手に持つスポーツドリンクを笹本の首に押し当てる。
「笹本さんお昼食べました?」
「うん」
下見旅行へと一緒に足を運んだ渋澤は、宿泊先の値引き交渉役として仕事を一任されたらしい。
渋澤の口車に乗せられて、何度もエロいことをされてしまった笹本からすれば納得の人選だ。
「眠いんですか?」
「んー、少しね」
「最近よく眠れてます?」
「どうだろ……。いつもと変わんない気もするけど。ってお前は母親かよ」
渋澤はなんて顔で自分を見ているのだろう。
困り果てたような、おおよそ悪人顔には似つかわしくない表情だった。
変なの……と、こっちまでおかしな表情になりそうだと思ったその時、笹本のスマホからアラーム音が鳴った。
笹本がアラームを止めてベンチから起き上がろうとすると渋澤に手首を掴まれて、上に引っ張りあげられるようにして起き上がる。
「……手首細くなってません?」
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