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第134話

「さぁどうだろ。夏バテかな」 笹本は自嘲気味に答えた。 ここのところ急激に食欲が落ちたのは自覚済みだ。 毎晩日課となっているDVDで映画鑑賞しながらの晩酌も、ぼうっとしてしまい、実はあまり内容が頭に入ってこなくなった。 しかし、まさかそれが成果なしだった件の下見旅行のせいだとは思いたくない。 「こういう時は肉っすね。肉食いに行きましょう!ていうかガリガリの笹本さんなんて不憫で見てられないって話しですよ。ちょっとぷにぷにしてるくらいが可愛いんだから」 「なんだよそれ。女の子みたいな扱いやめてくれる」 「何いってんすか。笹本さんが女の子に見える訳ないでしょー。笹本さんは俺の好きな人です。自分の好きな人がガリガリに痩せ細っていく姿見て喜ぶ奴がどこにいるんですか」 ただでさえ暑いのに、渋澤の話を聞いていると余計に顔が熱くなる。 口説かれているとわかるからだ。 同時に少し気落ちする。 入社してからというもの、どこに居ても目立つことなく所在さえ問われない。 頼まれる仕事と言えば主に雑用とお局美咲の使い走り。 そんな自分に比べたら、渋澤も小泉も、それなりに重要な仕事の成果を上げている。 こうしてどんどん後輩達に追い抜かれていくのだろうか。 「ともかく痩せてるからこんなとこで寝れるんですよ。ほんと危ないですよ。熱中症甘く見てると死にますからね」 「……」 不安は波のように押し寄せる。 笹本は自分の手首を握る渋澤の節ばった手に頬を摺り寄せた。 「ほんと笹本さんどうしたんですか」 「わかんないよ」 「俺、期待するし、付け込みますよ」 「いいよ」 多少捨て鉢になっていたのかもしれない。 自分でもよくわからないまま、渋澤にうんと甘やかされたい気分だった。

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