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第136話
「笹本さんお疲れ様です」
先に外へ出てきたのは小泉だった。
一日の仕事がやっと終わってこっちは結構ぐったりとした心持であるのに、小泉は疲れた素振りも見せず、キラキラとしたフレッシュオーラ全開だ。
あの旅行の一件があっても、渋澤、小泉の2人とは、昼休みを時々共にしたりと至って以前と変わらない関係が続いている。
「お疲れ様。渋澤は終わりそうだった?」
「はい。あと少しで終わるから先に歩いてろって言われました」
「そう」
「じゃあそうしようか」と笹本は小泉と肩を並べて歩き始めた。
「渋澤さん忙しそうですね。笹本さんは最近どうですか」
「まぁ……いつもと変わりないかな」
「そうですか。あの、唐突にこんな質問するのはおかしいってわかってるんですけど、笹本さん元気ですか」
「え?」
「あ、いや、ここ最近の笹本さん、少し元気ないから……」
「そう?言われてみればちょっと夏バテ気味なのかなぁ。焼肉食べたら元気になるよ。気にかけてくれてありがとう」
「いえ。あ、そうだ。笹本さんが出した社内旅行の通達見ました。文書の書き方がすごく綺麗だなって、俺感心したんです。俺あんな風にきっちり文字を四角いレイアウトの中に収めて作るのが苦手なので……」
「そうかな。僕、入社したての頃からあぁいう文書作りばかりさせられてて、部長からはここの文章がおかしいだのここは改行しろだの煩く言われてたからなぁ。いつの間にか鍛えられてたのかな」
「きっとそうですね」
小泉がにこりと笑った。
優しくてちょっと変わっている。
せっかくイケメンに整形したのだから、自分のような地味な人間ではなく、もっと他に目を向ければいいのにともったいなく思う。
そして小泉もまた、気落ちしている自分を気遣ってくれているとわかり、そわそわと少し落ち着かない気分になった。
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