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第137話
笹本達は他愛ない世間話をしながら道半ばで渋澤と合流した。
「これ笹本さんにって頼まれたんすけど」
歩きながら渋澤がワイシャツの胸ポケットから焼肉屋で使えるビールの半額券を人数分取り出した。
「クーポン券?誰から……?」
「美咲さんです。最近笹本さん元気ないって気にしてたみたいですよ。旅行の下見のことも、あれは部長がひどいわ。あり得ないわよね~って笹本さんに同情してましたよ」
「そうなんだ」
意外だった。美咲が笹本の仕事をそんな風に気にかけてくれるなど思ってもみなかった。
渋澤も、小泉も、まさかのお局まで。
モブ的に雑な扱いを受けるのは慣れている筈なのに、こうも他人の優しさに触れると、余計自分が余計弱くなってしまいそうだ。
いつまでもくよくよと落ち込んでいる場合ではない。
─しっかりしなくちゃ。
笹本は両手で軽く頬をパンと叩いた。
3人は会社最寄り駅近くの焼肉店に入った。
美咲がクーポンを持っているくらいなのだから社内の者ならば一度は行ったことがある行きつけの焼肉チェーン店だ。
時刻はまだ18時前で店内は空いていた。これから混み出すのだろう。
渋澤がメニューを広げ、牛、豚、鳥の3種が1キロ盛られている皿を指さしている。
「取り敢えずファミリーセットいきます?笹本さんはあんま食べないにしても小泉は結構食うよな?」
「はい。俺肉大好きです。取り敢えず空腹なので質より量ですね」
「僕もそれでいいよ」
「じゃあそれ1つと、牛タンと野菜の盛り合わせでいいすか?あとは追々、追加の方向で」
「うん」
笹本は店員にオーダーしている渋澤をぼうっと眺めた。
気の強そうな吊り気味の目元に軽薄そうな眉、鼻筋はすっと高く通っていて形が良い。
鼻の下は割と短めでそこから繋がる薄い唇からはクールな印象を受ける。
クールと言えば聞こえは良いが、現実の渋澤は意地悪だ。
それを総評すればやはり渋澤の顔は悪人顔である。
─……でも。
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