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第138話

よくよく見れば、案外整っているように見える。 大勢の中に埋もれてしまえば埋没してしまう容姿かもしれないが、自分よりは遥かに恵まれている。 じっと渋澤を見詰める笹本を小泉が見詰める。 「渋澤さんて口は悪いけど何だかんだ世話焼きで人は悪くないですよね」 「ん?あぁ、そうだね」 笹本が小泉に話しかけられたことに気づき、こうして落ち込む自分を焼肉に誘ったり、あんなことがあっても変わらず小泉と接しているの見れば、人が悪くないのは一目瞭然だ。 「勝てる気がしないなぁ……」 「……小泉」 小泉はぼそっと呟き寂しそうに微笑んだ。 それが自分に向けられた恋愛感情のことだとわかるから、何と返していいのかわからなくなる。 「あ、すみません。困らせるつもりはないんです。誰を選ぶも笹本さんの自由ですから」 あの一件から小泉が内に暗いものを抱えてきたことは知っている。うまくいかずに整形までして、ここで自分が断ったのならこいつはどうなる?と考えられずにはいられない。 「……」 笹本が黙ると、オーダーを終えた渋澤が小泉に顔を向けた。 「小泉ぃ、泣き落としとか卑怯じゃねぇ?笹本さんの同情を引いて困らせるとか、ほんと卑怯だな」 「別に泣き落としなんてしてないですよ!っていうか!渋澤さんに言われたくないです!今まで散々使ってきた手でしょ!手まで出してる渋澤さんとは違います!」 2人は顔を顰めながら互いを牽制する。 しかし険悪な雰囲気は感じられず、寧ろ仲がいいから言えるくらいの兄弟喧嘩のようにも見え、笹本は思わずふっと笑みを漏らした。 直ぐにビールが運ばれてきて、3人は先にグラスをぶつけて乾杯した。 「美咲さんあざーす」 「ぶっ」 「ぶふふっ」

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