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第160話

忙殺されそうなほど各々忙しい時期ではあったが、休日は笹本か渋澤の家へ集まって練習に励んだ。 この日は渋澤と小泉が初めて訪れる笹本の住むアパートで練習だった。 「バス停から結構歩きましたね」 「そうだね。でもバスと徒歩で会社まで40分もあれば着くから会社までは遠くないんだよね。行く気になれば自転車でも行ける範囲だし。それよりアパートのこの階段が僕にはきつくてなぁ」 「確かに」 「この辺りだとワンルーム6万くらい?公共交通機関へのアクセスが悪い所だと家賃がそこそこ安くていいんすよねぇ」 「へぇ、そうなんですか。俺まだ実家暮らしなので一人暮らし憧れます」 世間話をしながら笹本の部屋がある3階までの階段を上り切り、笹本が部屋の鍵を開ける。 「それより俺は笹本さんの部屋に来たってことに興奮する」 「確かに!」 「ちょっと2人とも……ただの地味なワンルームだし変に期待されても困るぞ」 「わかってますよ、んなことは。笹本さんがこの部屋でどんなことして過ごしてんのかとか妄想すると興奮するって話です。部屋の内装とかはむしろどうでもいいっす」 笹本は呆れた顔で溜息を吐きながらドアを開けた。 「お邪魔しまーす」 「お邪魔します」 笹本が先に入り2人が後から続いて入る。 玄関先にはカジュアルなビジネスシューズとスニーカー、それからコンビニくらいにしか履かないサンダルが一足置いてあっただけなのに、渋澤と小泉の大きな革靴が追加で置かれ、途端に賑やかさが増したようで少し笹本の気持ちが浮付いた。 自分だけの城にこの2人を入れるのはどこか妙で落ち着かない。 「うわー殺風景」 渋澤が言った。 「いやいや綺麗にしてますよ。渋澤さんちは散らかっててそう見えないだけで片付ければ同じように渋澤さんちも殺風景ですよ多分」 「笹本さん布団で寝てんの?」 「うん」 「へぇ。ベッドないだけで広いもんだな」 渋澤と小泉は暫し笹本の部屋を見渡して、一通り好きに感想を述べてから床に敷いてあるラグマットの上に腰を下ろした。 「座布団とかなくて悪いな」 客を招いたことがなくその予定もなかったので、他人を気遣うための物が一切家にない。

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