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第161話
「もしかして家に他人を上げるのって初めてだったり……?」
「え?……ははは」
辺りをきょろきょろしながら小泉が言った。当たっているだけに乾いた笑いしか出てこない。
何気なく痛い核心を突いてくる小泉は将来大物になると思う。天然のイケメン末恐ろしい。
「それより昔のアルバムとかないんすか。10代~20代前半」
「えー、年代ピンポイントで指定するなんて渋澤さん気持ち悪いです。もしかしてショタコンとかいうやつですか」
「何か問題でも。つーか笹本さんならいいじゃねぇかよ。合法だよ合法」
「でもそれって外見に固執してるように思えますけど」
「お前だって似たようなもんだろ。結局人は見た目9割。見た目から入るんだよ」
「俺は渋澤さんとは違います」
ただの会話が何故か途中から喧嘩腰になってきて、笹本はそれを黙って聞きながらマスクと眼鏡を外す。
─この2人はどうしてこうなんだ。
一向に止まないくだらない言葉の応酬に笹本のイライラがピークに達した。
「もうそんなことどうでもいいだろ!それより練習だよ練習!」
2人の会話を中断させて笹本はキッチンのシンク下を開けお盆を取り出した。
100円ショップで買ったおひとり様サイズの小さめなお盆だ。
渋澤と小泉も「お前のせいで怒られただろ」「知りませんよ」と小声でまだ言い合いしながら、荷物の中からお盆を取り出した。
「笹本さんのちっちゃくないですか」
「あれ、ほんとだ」
「まぁやってみましょーよ」
3人は取り敢えず1度挑戦してみようと、見様見真似の動きでお盆をひっくり返す。
「え、結構むずい!」
「これじゃ股間見えちゃいますね」
「そうだね。見えてもいいように何か肌色のものを貼るか穿くかしないとダメだね」
簡単そうに見えた芸は意外に難しく、一朝一夕で完成するものではなさそうだった。
その日1日だけで成果をあげることなど到底無理だった。
その後はヒロシ100パーセントの出る番組を録画して、何度もそれを見ながら練習したりした。
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