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第162話
夏の間中股間を隠すお盆芸に明け暮れて、残暑厳しい9月に入った。
その頃には社員旅行に参加する最終的な人員数も確定し、笹本は旅館や各施設の申し込み作業に追われた。
小泉がヒロシ100パーセントを宴会芸で披露するという噂は瞬く間に流れ、旅行参加者が急激に増えたのは事実だ。小泉はすごい。
一方で渋澤は旅行に関する値引き交渉を任されたということで、電話口に向かって団体割引から更に値切ろうとしている声が聞こえる。
「エステの割引はなしでいいので、その代わり宴会の料理を1品増やすかドリンク増やすかしてもらえませんか……、はい、はい、じゃあ料理はその金額で……。え?来年ですか?ちょっとわかり兼ねますが……。でしたらネットに口コミ投稿しておきましょうか。もちろん星5つで。はい、何人か投稿すればもう少し割引してもらえます?」
聞こえてくる限りでは細々としたところの駆け引きが行われているようだった。
ただの図々しい値切り客のようでもあるなと遠目から渋澤を観察したりした。
何はともあれ刻一刻と旅行の日が迫ってきている。
笹本は溜息を吐いた。
─あぁ、憂鬱だ。なんで僕まで全裸でお盆芸をやらなきゃいけないんだよ。
仕事以外に今考えられること、というよりも頭の中を占めているのはそればかり。
立て続けにもう一度溜息を吐いたら、隣の美咲に「辛気臭いわね。溜息吐きたいのはこっちよまったく」と毒を吐かれた。
今週末はお盆芸の最終練習日である。
各々がヒロシ100パーセントを研究した成果を見せ合う日でもあった。
そして当日。
この日の集合場所は渋澤の部屋。外ではまだ蝉が鳴き、太陽がじりじりと地上を焼いていた。
エアコンの効いた渋澤の部屋は砂漠からオアシスに場所を変えたかのように心地よい風が流れている。
そんな中、笹本の表情が固まる。
「えっ……脱ぐの?」
「そりゃそうでしょー。本番と思ってやるんすから。服着てない方がお盆が引っ掛からないことは検証済みですよ」
笹本と小泉の目の前で渋澤がいの一番に脱ぎ始めた。
嫌な思い出が頭の中を掠め、笹本は着ていたポロシャツの裾を握りしめる。
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