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第167話
「えっ、嘘、見えてた?」
「はい。もう少し速度を上げないとちらちら見えますね」
「手首にもっとスナップを効かせて勢いよく返すんすよ」
「わかったもう一度やってみる」
もちろん各々自己流で練習してきたわけだが、鏡で自己チェックした時は、意外と完璧に返せていると思っていたのに。
しかし、ちらちらとでも見えてしまっているのならば問題だ。
笹本は渋澤のアドバイス通りに手首の返しを強めた。
「せぇの……!どう?」
渋澤と小泉は座ったまま至近距離で笹本のお盆付近をじっと凝視している。
「さっきよりはまぁ」
「うーん。これは特訓が必要っすね。てことで、今日は俺のところで特訓してってください。マンツーマンで教えますから。よし小泉、お前は完璧だったからもう帰ってもいいぞ。本番の日も今日みたいにしっかり頼むぞ。それからこの下着を押さえつける為のタイツか何か、適当に見繕っといて」
「え?今帰れってこと?ていうか、渋澤さんひどい」
渋澤は床に落ちている小泉の衣服やカバンを拾い上げ、裸の小泉に押し付けた。
その行動全てが今すぐ帰れと物語っている。
「ひどくはねぇだろ。元々お前が持ってきた話にこっちは付き合ってやってんだからむしろ感謝しろよ」
「そ、それはそうですけど……、そんなこと言って笹本さんと2人きりになりたいだけでしょう」
「そうですが何か問題でも」
「笹本さんはそれでいいんですか?」
笹本から返事はなかった。
それもそのはず、渋澤達が言い争っている間も笹本はお盆返しの練習に余念がない。
集中してお盆を返す姿を見て小泉は溜息を一つ吐き、諦めたようだった。
「俺だってこの後用事あるし暇じゃないので……。それじゃ失礼します」
「おう、お疲れ」
小泉が手早く衣服身に着けてドアを出た。バタンとドアの閉まる音で笹本は小泉が帰ったことに気がついた。
「……あれ。小泉帰ったのか」
「何か用事あるみたいですよ」
「ふうん」
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