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第168話

小泉が先に帰ったのだと認識した途端、自分が渋澤と部屋に2人だけになってしまった事実に気付いた。 ─やばい……。 じわじわと湧いてきた熱が胸を押し上げてくる。 「あ……じゃ僕もそろそろ……。家でもう少し練習しとくから」 「ん?笹本さんも帰るんですか」 「え、あ、だって……」 笹本は眉を下げて渋澤を見詰めた。 渋澤がこっちを見ている。不機嫌そうな顔をしているというのに、笹本の眼には何か得体の知れないフィルターでもかかっているかのように渋澤からキラキラとした星のような弾ける光が見えた。 同時に襲い来る理解できない動悸と身体の火照り。自律神経がどこか狂ってしまったのかと思ってしまうほど急激に謎の現象が次々と身体に表れて、笹本は持っていたお盆を胸にぎゅっと抱えた。 「もう少し練習したら一緒に飯でも食いません?」 「いや、む、無理……渋澤見てると、し、死ぬかもしれない……」 「は?」 このままでは激しい心臓のポンプ運動で胸が爆発してしまう。自分が死んだら渋澤のせいだ。 あたふたと手足をばたつかせながら笹本が脱ぎ捨てた衣服を身に着ける。 「え、ちょっと待ってくださいよ。マジで帰るんですか」 「マジで帰ります……」 ─っていうか、何なんだ! 渋澤から溢れ出るあのキラキラ!後光が差しているようにも見えた。神か……! 渋澤から放たれる光に眼を焼かれそうで、胸は爆発寸前。最早生きた心地がしない! 笹本は着替えを済ませると荷物を両手に抱え、スニーカーの踵を潰して中途半端に履いたまま、「お邪魔しました!」と渋澤の部屋から逃げるようにして出て行った。 ばくばくとする胸を荷物でぎゅっと押さえ、丁度良く到着したバスに乗り込む。

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