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第170話
笹本は翌日から再度、お盆返しの猛特訓を開始した。
自分では完璧にこなしていたつもりだったが、あぁも2人から「見えた」と言われてしまっては。
仮に本番で見えてしまったとしたら、「汚いものを見せるな!!」という類のヤジが飛んできそうだ。
モブはモブでも、完璧な演技をする2人の傍で失敗すれば、絶対目立つに決まってる。
それだけはどうしても阻止したい。
「今度こそ……せーのっ」
気合いを入れる為、本番さながらにTバックを身に着けた。
その恰好で勢いよく手首をくるんと返す。すると手に持ったお盆の表裏がシュッと瞬時に入れ替わる。
洗面台の鏡から少し離れた位置で、全身をチェックしながら練習した。
「手首にスナップを効かせてって渋澤が言ってたよな……よし、もう一回」
くるんと返すのではなく、ぱっと返すのが笹本の中のイメージだ。
こんなお盆芸ですら後輩に遅れを取る不甲斐ない自分が、果たして渋澤に告白なんてできるのだろうか。
ここ数日、笹本は寝ても覚めても、お盆返しの練習に明け暮れていても、頭のどこか片隅で渋澤のことを考える。
そして、その渋澤に告白する自分の姿を想像する。
好きです。
好きになりました。
好きかもしれません。
好きになりました……は、さっき考えたか。
─……なんて言えばいいんだろう。
渋澤の手で優しく力強く腰を引き寄せられてキスをした。その手で髪を梳かれ、渋澤の指の感触と合わさった唇が気持ちよくて、ずっとこのままこうしていたいと思った。
抱きしめられて眠った時も、ここが一番の安全地帯とばかりにほっとして、ふわふわと羽毛に包まれているかのように心地よかったことしか覚えていない。
「あ……やっぱり好きだ……、どうしよう」
与えられた甘いひと時を思い出し、笹本がまたくるんとお盆をひっくり返す。
鏡には、渾身のポロリが映った。
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