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第172話

そんな不機嫌な顔で見せたくねぇだなんて言われたら色々と自信を無くしてしまいそうだが、自分自身の顔がどうしても好きになれず、ずっと隠してきたのだからそう言われても仕方がないのかもしれない。 今更悩むことでもない。だが、渋澤に「可愛い」と囁かれたことを思い出す。 「違いますよ!笹本さんの素顔が予想外に可愛いから他の人に見せたくないって意味ですよ!ねっ、渋澤さん!」 戦々恐々とした眼差しを渋澤に向ける小動物と化した笹本を、小泉が宥めてフォローする。 しかし渋澤の不機嫌な表情は変わることなく、終いにはチッと舌打ちまでされてしまった。 「あんたただでさえ鈍いんだから気をつけろよな。可愛い男は女の母性本能を擽るし、ショタ風成人男性好きのホモだって身近にいたりするんだから」 「……」 「渋澤は、僕を可愛いって思ってる……?」 ─……しまった。 はっとして笹本が慌てて口元を押さえる。心の声が思わず漏れてしまった。 渋澤が少しだけ慌てた笹本の様子を見て、不機嫌に顰めていた表情を緩め腰を屈ませる。 そのまま渋澤は笹本の耳元に唇を寄せた。 「当たり前でしょ。今すぐ犯したいくらい可愛いですよ」 「おっ!かっ!……おかしなことっ、こんなとこで言うなよな!!」 途端に笹本が茹蛸のように耳まで真っ赤にして返答はしどろもどろ。 笹本は本当にこの男に告白をするのか!?と自問自答してしまいそうだ。 「ラブラブのところちょっといいですか……。あの、俺がいること忘れないでくださいね!何なんですか~っ!俺だって笹本さんに告白して思いっきりセフレの前段階で振られてるのに目の前でいちゃいちゃと~っ!当てつけですか!」 「ちょ、ちょっと小泉、声を押さえて、落ち着いて」 真っ赤だった笹本の顔が青くなりそうな勢いで強張る。 一体こいつは公衆の面前で何を言い出すのだと思う傍ら、今度は小泉を宥める羽目になった。 斯くして笹本ら一行は、賑やかに目的地へと向けて出発したのだった。

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