173 / 206
第173話
夏の余韻を大いに残した初秋。
未だ強い日差しを時折感じるが天候には恵まれ、1泊2日の旅行中の天気予報は全日晴れである。
一行は笹本を真ん中に据えて新幹線の3人席に座り、車窓を流れていく景色を楽しみながらお盆芸の最終確認を行う。
「Tバックの上から押さえる為のストッキングも3人分購入してあります。脚の部分は1分丈くらいにハサミでカットしておきました」
「何から何までありがとう」
「元々はこいつが撒いた種だから当たり前っすよ」
相変わらずな会話で、笹本の緊張が解れていく。
笹本は寝不足だった。昨夜はなかなか寝付けずに、就寝直前、缶チューハイを煽ってから横になった。
しかしその後訪れた眠気も一時的なもので、またすぐに目が開いてしまう。
うとうとしては目が覚めて、トイレへ行って喉の渇きに気付き水を飲む。
この行動サイクルを昨夜は3回繰り返した。
本当に不安で眠れなかったのだ。
お盆芸も不眠の原因の一端ではあるが、個人的一大イベント"渋澤への告白"が大きな原因だろう。
今もこうして隣に座っているだけで、渋澤を意識して体が妙に縮こまる。
「で、笹本さんはあれからどうですか」
「あ、あぁ。猛特訓したから大丈夫!」
「少しくらい見えてもただの肌色が見えるだけだから、あまり気負わず気楽にやりましょう!」
「……それじゃダメなんだ。ちゃんと完璧にやるから、大丈夫」
きちんと成功させて、それから渋澤に告白するのだから、ふざけた真似はできない。
徐々に固く、深刻な表情になる笹本を見て、渋澤と小泉が目を見合わせる。
「笹本さん夕べはちゃんと寝れましたか」
「うん。質はイマイチかもしれないけど、一応寝たよ」
「もう今更お盆芸のこと考えてもどうにもなんないっすよ。今は考えるのやめてちょっと眠った方がいいよ」
渋澤はそう言いながら強い力で笹本の頭をぐいっと渋澤の肩に寄せる。
「え、ちょっ、渋澤?」
「黙って目ぇ瞑ってください」
ここに頭を置いて眠れということなのだとわかった。
ともだちにシェアしよう!