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第174話
─いや、待て。……こんな態勢で眠れるか!?
余計にドキドキする胸を手で押さえる。
─無理無理!
笹本はこんな状況、状態で眠れる筈がないと思っていたのだが、不思議と段々微睡み始め新幹線での移動小一時間あまりを渋澤の肩で眠って過ごしたのだった。
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「……さん、笹本さん。気持ちよさそうに寝てるところすみませんが、もうすぐ着きますよ」
頭上から小泉の声が降ってくる。
目的地へ間もなく到着する旨の車内アナウンスも耳に入ってきた。
「……へ、……あ!?ごめんっ!」
笹本は渋澤の肩に頭を乗せ、更には上半身を預けるような形で眠ってしまっていたことに気付き、慌てて頭を上げた。
自分は人の肩で何ということを……と、渋澤の肩に視線を走らせると渋澤の着ている白いポロシャツが一部濡れている。
「っ、よ、涎が……!」
笹本が慌ててジーンズのポケットからハンカチを取り出して渋澤の肩を拭う。
「乾くし別にいいっすよ。むしろ啜りたいくらいだし」
「……ずるい」
「え?何言ってんだよ。涎だよ!?唾液だよ!?」
「ご褒美でしょ」
「ねぇ」
「……」
─もう何も言うまい。
2人の会話についていけない。笹本は言葉を無くし、黙って下車の準備を始めた。
スポーツバッグを肩に下げ、乗降口のあるデッキへと移動する。
そこで同じ本社で勤務する同僚達と出くわした。人事と経理の笹本よりも2年早い入社の同期組2人だった。
「おお、渋澤、小泉も同じ新幹線乗ってたんだな」
「先輩方、おはようございます」
「おはざーす。集合時間に合わせれば、地方勤務以外の人達は殆どみんなこれに乗ってんじゃないすかね」
「そうだろうな。渋澤は私服でも相変わらずの強面だけど小泉はいつでもイケメンだなぁ。妬みたくなるその爽やかさ」
「ほんとほんと。早朝からその爽やかさが羨ましいよなぁ。……あれ?もう一人は?いつも一緒にいる眼鏡マスクのちっこいの」
視界に入っても誰も気付かないのはいつものことなので会話の中で触れられるとは思っていない笹本はすっかり油断していた。
自分は無関係ですとばかりに、先輩を交えた渋澤達4人の会話を知らんぷりしてただ聞いていたのである。
挨拶くらいしておかなければと、笹本が慌てて口を開く。
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