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第175話

「おはようございます」 「ん?」 「……この子誰?知り合い?」 「あ、いや、僕は……」 笹本は何と返事してよいものか言葉を詰まらせた。 まさかここまで自分の素顔が認知されていないとは。 絶句する笹本の傍ら、渋澤がぶふっと吹き出した。 「おい渋澤、笑うな!」 笹本がむすっとしながら渋澤を嗜めていると小泉までもがくすくすと笑い始める。 きょとんとしながら笹本達のやり取りを見ていた先輩である同僚達も何か勘づいた様子で笹本をじっと見る。 「なんだよ小泉まで……もう。あの……僕、総務の笹本です。旅行中お世話になります」 笹本はそう言って彼らに頭を軽く下げた。 彼らは明らかに驚いた顔をしていた。 「いやぁ全然わからんかった。童顔にも程があるぞ笹本。渋澤か小泉が親戚の子でも連れてきたのかと思ったわ」 「ああ、な。それだそれ、親戚の子」 それを聞いた渋澤がまた、ぶふっと笑った。 ─何がおかしいんだよ。ちっとも全然面白くない……! この場から早く立ち去りたいと思ったが、新幹線が到着しない限りデッキの上だ、心を無にしてやり過ごすしかない。 「バカにしてるわけじゃないぞ笹本。可愛いって話だよ。そうだ、お前酒飲めたよな?あとでじっくり話しようぜ。なんか興味湧いてきたわ」 「え、あ……」 ─え~……。 無駄に興味を持たれても困る。 自分は話題の中心にはなりたくない。 どうやって断ろうかと頭をフル回転させかけた時、「いや~それは」と渋澤が軽い口調で話の腰を折った。 「いやいや、笹本さんは酒癖悪いっすから止めておいた方が。飲むならコイツ潰してコイツの株下げてくださいよ。女性陣は皆さん小泉に目がハートなんで、現実の小泉もただの人なんだってことを知らしめて女性陣の目を覚ましてあげたいなと」 「確かにー」 「そういやお前が参加するからって店舗勤務の子達もこの旅行に参加するの決めたんだって話、相当広まってるぞ」 人事の先輩が小泉の肩を軽く小突いた。 小泉は気まずそうに「ははは」と苦笑いを溢している。 小泉には悪いが渋澤のおかげでいつの間にか話題のネタが自分から小泉へと移ったことにほっとした。

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