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第176話

程なくして新幹線が目的の駅に到着した。 笹本達は集合場所である改札を抜けた駅の外へと向かう。 潮の香りが仄かに漂い気分が高揚する。 「眩し……」 笹本は手を額に翳した。 太陽が眩しい雲一つない、秋晴れの空である。 旅行参加者は疎らではあるが既に到着している者もいて、参加者全員が集まれば駅前が大変な混雑に見舞われるのではないか少し不安に思った。 だが人数確認さえ済めば、その後の行き先は本社と店舗とでは違うため参加者が一斉に移動することはない。 「本社チームは全員揃いました」 「ご苦労様。じゃあ人事の研修担当だけ残して、我々は観光スポット巡りに出発します」 本社の参加者は集合時間前に全員の点呼が取れたため、一足先に移動することになり、ここで人事部研修担当である小泉とは一旦別れることになった。 「笹本さん、渋沢さん、ではまた夜に」 「おう」 「うん、研修頑張ってね」 「はい。お二人とも楽しんできてください」 小泉が寂しげな表情で笑う。 研修よりも観光スポットへ行きたいとしょんぼりした小泉の顔に書いてあるようで少しだけ気の毒に思ってしまった。 その後駅前に停車中の貸し切りバスに乗り込み、一向は出発した。 バスは海沿いの道を走る。 笹本は外の景色に目をやった。 もう海水浴シーズンではないが、ウェットスーツに身を包み、サーフィンに興ずる人々と時々擦れ違う。 ぴったりと身体に張り付くウェアは、渋澤や小泉だったらきっと似合うだろうと、今回の旅行とは全く関係のないことを考えた。 ─そういや今夜の宴会でお盆芸を披露するんだよな……。 坂元は次の目的地に着くまで、ぼんやりと車窓の景色を眺めながら、頭の中でお盆返しの復習に勤しんだ。 20分ほどバスに揺られ、始めの目的地へと到着した。 バスを降りると眼前には立派な天守閣がそびえ立つ。 そこは数十年前に築城された観光用の城だった。 温泉街と海が一望でき、軽食がとれる武家カフェという飲食店が入っている。 他のフロアは日本各地の城に纏わる武家資料館となっていた。 本社チーム一向はそこで一旦自由行動となった。 集合時間を告げられて、それぞれが好きな所へと散って行く。 笹本が辺りを見回してきょろきょろしていると渋澤がすぐにやってきた。

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