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第177話

「一緒に回りましょ」 「あぁ、うん」 二人になると急に気まずい。否、気まずいのではなく気恥ずかしいのだ。 今渋澤の顔を直視したら顔が沸騰したかのように赤くなるのは目に見えている。 なぜなら、笹本は渋澤への気持ちをちゃんと自覚したのだから。 渋澤はまともに渋澤の顔を見もしない笹本を訝しむ様子もなくいつもと変わりない調子で笹本に接する。 恥ずかしくてどきどきしているのは自分だけかと、笹本は更に渋澤の存在に過敏に反応した。 隣に並んで歩く渋澤との距離がよくわからない。近すぎるのは恥ずかしい。かと言ってあまり離れるのは本意ではない。男同士の友人間に置けるパーソナルスペースがわからない。 戸惑う笹本などお構いなしに、渋澤はどんどん興味の惹かれる方へと足を進め、現存する江戸時代初期の馬鎧や馬具などの重要文化資料をまじまじと見詰めている。 兜や鎧などの展示もされており、本来ならば笹本だって食い入るように展示品を見ているはずなのだが、どうにも今は展示品よりも渋澤に目がいってしまう。 少し離れたところから笹本の視線は展示品と渋澤を交互に行ったり来たり。 するとあまり動きのない笹本に渋澤が気付き、「笹本さん?」と声をかけてきた。 「あまり興味ないっすか?」 「そんなことは……。貴重な文化財だし、見れて嬉しいよ」 返事はするが渋澤の顔を真直ぐ見ることができない。 正直なところ、その昔どこかの誰かが身に着けていた鎧よりも渋澤に神経を注いでしまっている。 渋澤のことが好きだと認めただけでなく、今夜の宴会が終わったら渋澤に告白しようと考えているから、こうも意識してしまうのだ。 「でもちょっと元気ないっていうか、いつもと違うなぁ。具合悪くないっすよね?」 「いやいや、全然元気だし、大丈夫」 「それじゃあ気分悪かったらすぐ言ってくださいよ」 渋澤はそう言うと笹本の細い手首を掴み、隣のブースへと移動を始めた。 意地悪もたくさんされたけれど、この手がどんなに優しいかも知っている。 今夜のことをあれこれ考え緊張で固くしていた体は、手首を掴む渋澤の熱で次第に解れていった。 渋澤は笹本の手首を掴んだままぐいぐい足を進める。 「笹本さん!春画!すげ、18歳未満入場禁止だ」 「え、わ、すご」

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