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第180話
美咲達の後ろ姿を見送り、笹本は渋澤に視線を移した。
この手はいつまで繋いだままなんだろう。
─不自然じゃないか?おかしい……おかしいよな?
俺の視線に気づいた渋澤がこっちを見てにっかり笑う。
「俺達も行きますか武家カフェ」
「いやいいよ。またあの人達いるだろうし」
「それもそうっすね。ていうか、笹本さんて相当女性苦手ですよね。特に村上さんの方」
「……なんでわかんだよ、そんなこと。誰にも言ったことないのに」
その通りだった。美咲は苦手だし好きじゃないけど、それよりも女らしい村上の方が実は苦手だ。
話をするなら美咲の方が楽だった。
何より村上はふんわりした雰囲気を纏いながら、その観察眼は結構鋭い。
それに甘い香水の香りや、ふんわりカールした髪、パステルピンクの爪、そんな見た目すらごめんなさいと思ってしまう。
それを考えると女の色気があまり好きではない自分の性癖を暴いた渋澤の気持ちもわかる。
「見てればわかりますよ。俺、笹本さんのことずっと見てますから」
「ふうん……じゃない、見るなよそんな僕のこと。し、仕事中にさ。それにそんな僕のダメなところに気付いて僕を嫌になったりしないのか」
「何言ってんすか。好きも嫌いも色々あるから面白いんじゃないすか。童顔を隠したくてマスクと眼鏡で顔を覆ってしまうヘタレなところも、女性が苦手なところも、人間らしくていいと思いますよ。そんな笹本さんが一生懸命美咲さんとかにいびられながら仕事してんの、すっげぇ可愛くて応援したくなるんですよねぇ」
「……」
そんな風に観察されていたなんて。
じわじわと熱が上り首も顔をみるみるうちに赤くなる。
以前の自分ならば見られることなど嫌悪でしかなかった。
だが今は違う。渋澤に見ていると言われても、そんな感情はちっとも湧きあがらない。
むしろ嬉しいとすら思える。本当に恋とはすごいものだ。
─好きって言いたい。
いや、絶対にこの想いを伝えるのだ。
笹本は再度、自分の決意をしっかりと胸に固めたのだった。
その後も何となく渋澤に手首を掴ませたままで観光し、その手が離れていったのはバスへ戻る集合時間間際のことだった。
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