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第182話

しかしながら今の笹本には大多数から寄せられる想いより、渋澤ただ一人に想われることの方が最重要課題だった。 「小泉はますますモテて困るかもしれないけど、今夜の宴会は頑張ろう。僕、自宅で猛特訓してきた。二人の足を引っ張らないように頑張るから。よろしくな!」 笹本が気合いの入った真剣な眼差しで、渋澤と小泉をそれぞれ見遣った。 「はい!こちらこそよろしくお願いします!」 後輩らしいはきはきとした受け答えをしながら小泉がびしっと背筋を伸ばす。 それに対し渋澤は意外だと言わんばかりに驚きの表情を見せる。 「へぇ。そんなに頑張ったんだ……。楽しみだな。あー、でもポロリしそうになったら俺の後ろに隠れてもいいっすからね」 「しないから!」 笹本の即答に二人が笑う。 後輩でありながら非常に頼もしい渋澤と小泉。この二人と一緒なら、きっと成功する。 そして─。 笹本は自身の人生における一大イベントと言っても過言ではない裸芸と、その後の告白が成功するよう願いを込めた。 宿泊する部屋は笹本、渋澤、小泉が同室で割り振られていた。 笹本達は一旦荷物を置くため、鍵を受けとり部屋へと移動した。 木製の引き扉の奥に襖があり、襖を開くと畳の和室が2部屋あった。 四角い和風の座卓には茶を入れる道具一式と饅頭のような茶菓子が置いてあり、テレビに電話、小さな冷蔵庫に小型金庫が置かれている。 笹本達は財布などの貴重品を金庫へ入れてから、早速荷物の中からお盆を取り出し、この後開催される宴会へ向けて最終確認を行った。 「せーのっ」 せーのの掛け声で一斉に股関を隠しているお盆をくるりんぱとひっくり返した。 「よしっ」 「おっしゃ」 「やった!」 「やった!」と言いながら笹本がお盆を持ったまま両手で万歳をした。 「笹本さん、それダメです!客席に股関が丸見えです!」 「ぶふっ、ぽろりどころじゃねぇな」 「あ、気を付けます……」 二人に嗜められて恥ずかしくなった笹本は顔を下に向けた。 三人は客席を前方にと仮定して、左から笹本、小泉、渋澤の順に並ぶ。 小泉が音頭を取り渋澤、笹本、小泉の順に個人技を披露し、最後に三人揃って三回連続でお盆を返す。 この一連の動作が終われば、笹本達の出番は終わりだ。 笹本達は各々練習してきた個人技を終え、その後の三回連続返しに成功したところだった。

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