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第192話

どれだけの想いを乗せてお盆芸に挑んだのか2人は知らない。 それはわかっていたけれど、決死の覚悟で挑戦し、そして失敗したことを軽々しく「良かった」などと言われたくなかった。 「……うるさい」 「え?」 「……?」 完全にただの八つ当たりだった。 「うるさいって言ったんだ!」 「どうしたんすか急に」 「笹本さん?」 突然張り詰めていた糸がぷつんと切れたみたいに笹本の涙腺が崩壊した。 急にぽろぽろと涙を溢し始めた笹本を見て渋澤と小泉が戸惑っているのがわかった。 けれど、一度決壊した涙腺は修復するまでに時間がかかることだろう。 「僕の……僕の失敗が、そんなに面白いのかよっ」 「何言ってるんですか、そんなこと誰も思っていないですよ?面白いのニュアンスが違ってます、笹本さんっ」 「そうっすよ。別にあんたの頑張りを笑ってんじゃねーし、むしろ認めてんですから」 「そうですよ」 ─本当に? ─本当に僕のことを認めてくれているのか? からかわれている訳じゃないのはわかっている。 けれど本当にこんな自分を認めてくれているのか? 「なんで文句の一つも言わない?っ、予定にないことして、僕は二人に迷惑掛けたんだぞ」 渋澤達は返答に困っている。 真実だからきっと何も言えないのだ。きっとそうだ。 おかしな沈黙が続き、ハーッと渋澤が大きく溜息を吐いた。 「小泉、超絶山奥の秘境にある幻の地ビール買ってきて」 「はぁ……?ビールですか?いいですけど笹本さんのこと苛めないでくださいよ」 「誰が苛めるかよ。つーかわかってんだろうな」 渋澤の声が小泉を脅しているように聞こえる。 しかし泣いている笹本には話の展開が読めない。 「え?あぁ……俺がお邪魔ってことですか。もう……わかりました、わかりましたよ。じゃあ俺ちょっと山奥の秘境にある幻のビール探しに行ってきます」 「超絶秘境だぞ」 「はいはい」 小泉はむすっとしながら立ち上がり、直ぐに部屋を出ていった。 「……なんで今ビール?」 「何でって。マジで鈍い人だよね笹本さんてさ。まぁいいや、ここどーぞ」 きょとんとしている笹本に向かって渋澤が両腕を伸ばし、胡座をかいている自分の膝を指さした。 「え、あ、なんでそんなとこに……」 唐突に指定された座席は渋澤の上。 そんなことをされれば戸惑うに決まっている。

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