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第193話

「好きな子が泣いてるんで慰めたいんです」 「……なんでだよ」 膝を崩して布団の上で涙を溢していた笹本だったが、伸ばされた渋澤の手に向かってのろのろと腰を上げる。 なんで、なんでと繰り返しながら、笹本は渋澤の目の前まで移動した。 「よっ」 「わ……っ」 せっかくここまで来た獲物を逃がすまいとするように、渋澤が笹本の腰に抱きつき片手で笹本の膝裏を掬った。 気付けば笹本は渋澤の膝の上、腕の中にいた。 「笹本さん、よくガンバりました」 渋澤は自分の上で笹本を横抱きしながら笹本の頭に手を乗せた。 ぽんぽんと子供をあやすようにその手が動き、次第に笹本も落ち着きを取り戻していく。 勝手なことをして、失敗した。 勝手に成功したらと願掛けをし告白するだなんて決めて、失敗して落ち込んだ。 どこをどうとったっていいところなんて、一つもない。 これじゃ只の質の悪い先輩だ。 けれどこんな自分を渋澤が、それに小泉も、受け入れ認めてくれている。 「なんで」 「ん?」 「こんな僕のどこが好きなの?予定にないこと勝手にやって、勝手に不機嫌になって泣いて……。渋澤、変だよ」 自分に自信がないから不安になる。 自分自身を好きになれないから卑屈にもなる。 そんな自分が告白しようだなんておこがましいこと、考えなければよかった。 恥ずかしさすら込み上げてくる。 「まぁ確かに笹本さんて、暗いしネガティブ思考なとこあるし面倒くさいとこもあるけど」 「……」 やっぱりそんな風に思われていたのかと、暗い、ネガティブ、面倒くさいがサクサクと笹本の胸に直撃する。 「でも俺は、それ以上に笹本さんが負けず嫌いの頑張り屋で、すげぇ可愛い人だって知ってますから」 「……」 それでも渋澤はこんな自分のダメじゃない部分を拾い上げてくれるのだ。 笹本は伏せていた顔を上げ、涙で潤んだ目を渋澤に向けた。 「笹本さん、好きですよ。何度でも言います。好きです、笹本さん」 「渋澤……」 「なんか、しょんぼりしてる笹本さんもいいっすよね。勃起しそう」 真顔でそう言われ、狼狽えた。 「ば、ばかなこと言ってんな!」 「ははっ」 渋澤は柔らかな顔で笑っている。 真っ直ぐな想いをぶつけられてきたのはわかっている。 渋澤の「好き」が嘘をついているだなんて思っていない。

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