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第205話

ゆったりとした時間の流れの中、二人の夏期休暇は最終日を迎えた。 「枝豆って体にいいんすよね。」 「ビールと合うよな。あ、本編始まる。僕この女優さん可愛くて好きなんだよなぁ」 「えー、俺とどっちが可愛いですか」 「何その無駄な対抗意識」 渋澤が笹本の趣味に合わせ、この日の夜も二人揃って晩酌しながらの映画鑑賞に勤しむ。 今夜のDVDは、フランスのアクション映画だ。 国家侵略を策謀する悪の組織と国家警察の闘争を派手なアクションで魅せる映画だが、実は国家警察が真の悪だったというストーリー。 そこに登場する色っぽくも可愛らしい武器マニア役の女優が、笹本のお気に入りだった。 黙々とビールを片手につまみを口にしながら映画を見ていたが、笹本お気に入りの女優のセリフであることを思い出した。 『これだけやったんだから私にも何かご褒美があってもいいんじゃない?』 『まだだ。もっと必要だ』 武器マニアの女が国家警察機密情報の一部を手に入れたシーンの台詞の時だった。 笹本の脳裏にふっと渋澤の言葉が過った。 「あ、そういえば」 「?」 「思い出したんだけど、前に社内旅行の宴会芸終わったらご褒美的なものを考えてるって言ってたよな?」 笹本の言葉で枝豆を掴んだまま渋澤の身体がぎくりと強張った。 「……」 「いや別に、無理にそんなご褒美なんていらないよ?僕はこうしていつもの日常が送れるだけで十分だから」 渋澤よりも年上の自分が何かせびるようなみっともない真似はしたくない。 けれど渋澤は何か形あるものを贈り物に考え、既に準備しているのではないかと思った。 だとすれば、受け取らない方が失礼に当たるだろう。 無ければ無いで良いのだが、もし何かあるのなら、それはそれで楽しみだとも思う。 だから少しウキウキしてしまった。 「そうっすよね……。俺も覚悟決めなきゃなぁ……」 「え?」 渋澤の小さな呟きは突然始まった銃撃戦の音にかき消され、笹本の耳に届くことはなかった。 映画は国家警察の拠点が大爆発をして痛快なエンディングを迎えた。 「うわー、やり過ぎでしょこれ。おもしれーけど」 「言えてる。証拠も何もこれじゃ全部燃えちゃうじゃないか……」 「ぶっ、ウケる」 渋澤はカラカラと笑ってトイレへと入っていった。

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