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第3話
「え?マスクのせいだか何だか知らないけどモゴモゴしてて何言ってるのかよく聞こえないのよね。今日中にやっといてね」
─このばばあ。
とは思うけれど、心で溜息一つ吐いてもういいやと早々に諦めている自分がいる。
こんな図々しいお局美咲とは対照的に笹本の向いに座る一つ上の先輩である村上はふわふわ系の今時な女性だ。
美咲は平気なのだがこのふわふわとした、the女子、みたいな女性が笹本は苦手だった。
「笹本君大丈夫ぅ?あたしも備品発注押し付けられたことがあって、他の人に手伝ってもらってやっと終わったんだよね。あたし手伝おうか?」
村上は美咲に聞こえないように手で口元をカバーしてこそこそと小さな声で笹本に話しかける。
長~い睫毛、ほわんとしたピンクの頬、うるうるの唇。
─直視できない……!
「や、いいです……」
「あ、そう?」
「あー、僕、蛍光灯取り替えてきます……」
脚立を取りに行こうと席を立った際、彼女の不満げに尖った唇が一瞬視線を掠めた。
せっかく声をかけてあげたのに……といった心情だったのだろうか。それを断ったから怒ったのだろうか。
けれどそれを確認する勇気なんてない。
女子、理解不能……!
こんな感じで今まで生きてきたものだから当然彼女ができた試しもない。
そもそも女性に魅力を感じたことなどあったのだろうか。それすら疑問だ。
笹本は備品倉庫から新しい蛍光灯を持ってきて、給湯室の隣にあるロッカータイプの用具入れから脚立を取り出し、総務と同じフロア、隣の島である経理部へと向かった。
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