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第4話
経理部長に蛍光灯の取り換えを一言告げて、照明の電源を落としてから脚立を広げた。
笹本が真後ろでガタガタと音を立ててアピールするが、交換に該当する蛍光灯の真下の経理部員は笹本に気付くことなく電卓を叩き続けている。
笹本は社内一、こいつが苦手だった。
一応そいつの手が止まったところを確認して声を掛けた。
「蛍光灯の交換したいんだけど、少し場所貸してもらってもいいかな」
「ん?あぁ、どうぞ」
そう言って笹本の方を振りむいたのは、渋澤浩(シブサワコウ)。
目つきが悪く、細身で背が高い。一見怖い見た目通りの、本当に怖い奴だ。
渋澤は椅子を後ろへ引き脚立を置くスペースを笹本に譲る。
そこへ笹本が脚立を立てて上って行く。
「笹本さん天井に手、届きます?」
「え、どういう意味」
「笹本さんチビだから」
「……」
こんないじりはいつものことだからスルーする。
確かに脚立を最大限まで引き伸ばし、その頂上に立たなければ蛍光灯は取り替えられない。
けれど届きます。届きますからー!
心で悪態つきながら、切れかけの蛍光灯を外した。
外した蛍光灯を下へ下ろそうと腰を屈めた瞬間、脚立がグラッと揺れる。
「……っ!」
咄嗟に足元の脚立の縁を掴みバランスを取る。
脚立の金具をちゃんと固定していなかったのだろうか。非常に危ない。
ふうと息を吐き顔を上げると渋澤がはははと笑っている。
よく見ると渋澤の手が脚立を掴んで揺すっていた。
「地震地震~」
「……!」
─ぐらぐらの原因はてめーか!
「危ないからやめてくれないかな」
「怖い?笹本さん」
─こえぇわ!
渋澤は悪い目つきのまま、にこにこと笑っている。付き合いきれない。
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