6 / 206
第6話
思わず溜息が溢れる。
笹本が席に戻りちらりと渋澤に目をやると、長身の背中を丸め、いつもと同じ姿勢で電卓を叩いていた。
渋澤の外見は至って普通。だが、細身で身長は高くスタイルだけはいい。
目付きは悪いけど別に見れないほどひどい顔をしている訳でもない。
外見だけでも自分より秀でているのだから、神様はズルいなと笹本は思う。
だからといって渋澤は決してイケメン属性ではなく、どちらかと言えばモブ属性。
割とこっち寄りだ。
渋澤の笹本へのふざけた態度が誰の目にも留まらないことがそれを物語っている。
笹本が目立たないのと同じように、渋澤もまた、あまり目立たない社員の一人だった。
その点妙な親近感を覚えていることも確かだが、かと言って苦手であることに変わりはなく全然わかり合える気もしない。
社会に出れば没個性の笹本だが、退社後、自分の時間はもちろん自分が主役だ。
いつものように定時で仕事を終わらせ会社を出る。
バスに揺られて帰路につき、その足でコンビニへ寄り、イカの塩辛とタコわさ、缶ビールを買って自宅アパートへと帰宅する。
アパートは最寄りのバス停から徒歩15分。
バス停から程よく離れたこのアパートは3階建てのワンルームで家賃は月55000円。
笹本の部屋は3階にありエレベーターがないため階段を使って毎日上り下りしている。
不慣れだった頃の階段による疲労は今では日々の良い運動へと変わった。
ともだちにシェアしよう!