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第10話
ノンストップで急接近する唐揚げに、もう迷っている暇はなかった。
笹本はマスクをひょいと下げ、渋澤の持つ箸から唐揚げにパクりとかぶり付き口の中へ収めると同時にマスクを戻す。
「すっげ、早いっすね~」
「もう食べないぞ。今度やったら怒るからな」
「えー笹本さん怒っても怖くなさそう」
「……あのなぁ。渋澤、ちょっと顔貸せ」
「……?」
カチンときた。
日々蓄積された渋澤への怒りも然ることながら、目の前でへらへらしながらそんなことを抜かすものだからここはきちんと言ってやらなきゃダメだと思った。
流石にこんな席で説教なんて野暮なことはしたくない。
笹本はマスクをずらし、グラスに残ったビールをぐいっと煽り立ち上がる。
渋澤も一緒に立ち上がり、笹本の後をついてゆく。
渋澤にチビだとからかわれる笹本の身長は165センチ。確かに大きくはない。
その後ろから、参ったなと頭に手をやる渋澤は180センチを越える長身で、ひょろい2人が並んで歩くとまるで兄弟のようだった。
笹本はトイレに向かう。
誰にも見られず話を聞かれない場所なんて、トイレくらいしか思い付かない。
男子トイレのマークを確認して中へ入ると小便気1つに個室が1つ。
「渋澤、中入って」
「え。これって何のお誘いですか」
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