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第24話 イエス、ノーパン、ノーズボン

 飲みに行ってたんだってさ。俺が連れて行ってもらったあのゲイバーで飲んで、考え事してたんだって。マスターに聞けばわかるよって、和臣が笑って、アリバイを教えてくれた。  そんで、次は俺が怒られた。ファミレスで仰木と何してたって、言われたけどさ。何もない。ただ、話を聞いてもらってただけだ。和臣にウソつかれてショックから泣きそうになった俺の話を。それなのに、おかしくねぇ? ウソついてた和臣のほうがずっと悪いだろうが。けど、俺は帰り道でずっと笑ってた。  ――おい、剣斗、笑い事じゃないからな。  そんなふうに怒られて。  ――あぁ。  ――って、笑ってんじゃねぇか。  笑うだろ。それ完全にヤキモチじゃん。そして、ついさっき、必死の顔でファミレスの窓ガラスにへばりついていた和臣を思い出して、くすぐったくなってまた笑った。 「あれ? 着替えは?」  和臣の部屋も俺のところと同じワンルーム。トイレとバスは一緒くたになってる。テレビはなくて、その代わりにタブレットがあった。キッチンはけっこうしっかりしてるから、料理もできそう。普通のワンルームで、普通に大学生の男の一人暮らし、そんな部屋。  でも、俺にとっては心臓バックバクになる特別な部屋だ。 「なぁ! 和臣! 着替え、俺の、上しかねぇよ!」  和臣の部屋にいる。ディープキスの続きを、この部屋でする。すげぇ待ってたんだからな。すげぇ、続き、したかったんだからな。 「あぁ、ないよ」 「なっ! ないって、なんだよ」  その続きをするために、シャワーで身体洗ったけど。 「ないもんはないよ」  先にシャワーを五分で終えた和臣がしれっと言った。 「は? なかったら、出れねぇだろっ」 「平気だよ。俺しかいないんだから」 「お前がいるから、出れねぇんだろうが!」 「あのね……」  うわああ! そんな叫び声ごと和臣の胸の中に飛び込んだ。裸の胸に、激突して、声も出ない。 「今から、するのに、服いらないだろ」 「けけけけ、けどっ」 「それに、普通にそそるし……って、なぁ、お前さ、そういう顔、あの一年の仰木とかって奴だけじゃなく、誰にも見せるなよ?」 「?」  俺はそれどころじゃない。和臣の胸に抱きすくめられながら、服の下で隠れてるのか隠しきれてないのかわかんねぇ、股のところが、スースーしすぎて落ち着かない。ノーパン、ノーズボンとか。 「あのなぁ! ホント! 無自覚すぎだ! お前、この前、実習の時だってそうだぞ」 「あ?」 「あ? じゃないから。あの時、ただならぬ雰囲気出しやがって。慌てて邪魔しに入ったっつうの」  実習の中休み。俺と仰木が外の空気を吸いに出て、そこに和臣が現れた。俺は久しぶりに和臣と話せたことに浮かれて、その日の夜会えるかもって期待したけど、結局はダメだったっけ。 「必死こいて、あの一年をけん制して、またそのことに落ち込んでた」 「なんで落ち込むんだよ」 「剣斗に嵌ってるって自覚したから」 「!」  そう言って、ふわりと照れて熱くなった俺の頬に触れてくれる。 「お前、それ、無自覚? こうやって触ると、少し擦り寄るの」 「? わかんねぇ」 「あっそ……」  知らない。擦り寄ろうと思ってやってるわけじゃない。ただ、和臣の掌が心地良くて好きなだけ。触られると、自然と目を瞑るようになったけれど、だからって別にそんなの意識はしていない。 「可愛すぎて、困る」 「おぅ、困れ困れ」 「あのなぁ……ったく」  今、俺らはベッドの上にいる。二つ年上の彼氏は溜め息をつきながら、口元を押さえてた手で俺を引き寄せ、触れるだけのキスをくれた。  チュ、って音が部屋に響いて、胸のところがじんわりと熱くなった。  困るくらいたいしたことじゃねぇだろ。こっちは、悩みまくって、考えまくって、指に針何回ブッ刺したと思ってんだ。チクチク痛くて、大変だったんだからな。 「なぁ、和臣」 「ん?」  俺じゃダメなのかって、不安だったんだかんな。 「和臣は、さ……」  チラッと見たら、真っ直ぐ俺を見つめて、待っててくれた。 「あのさ、処女って、やっぱ無理?」 「ブホッ! ゲホッ!」 「ちょ、おい、大丈夫か?」  いきなりむせてうずくまった和臣の背中を慌ててさすった。言い方がダイレクトだった? それとも、マジで無理だったけど頑張ろうと思ったところで、そんなの言われて、ビビった? 「ったく、お前なぁっ!」 「かず、っ……ン」  さすってた俺を見上げるような体勢から噛み付くようにキスされた。 「ンっ……ん、っン」  うなじをちょっと痛いくらいに掴まれて、そのまま、舌が入ってくる。口の中を舌で荒らされて、ゾクゾクッ、って刺激が尾てい骨の辺りから掴まれてるうなじまで一気に駆け上った。 「ッん」  唇が離れる瞬間、まだ舌先が触れ合ってるのが、たまらなくエロくて、その舌のやらしさに蕩ける。  こんな、舌先が残るような、濡れたキスとかされただけで、俺は、もうなんか腹の底が熱くなる。そのくらいに不慣れでたどたどしい処女相手じゃ、和臣は――。 「俺とすんの、面倒じゃねぇ?」 「はい?」  訊きながら、面倒って言われたくなくて、和臣の肩にしがみついてた。 「男同士、っつうか、俺は全部初めてだから、その、最初は大変なんだろ? ケツ使うから、そういうのに慣らさないといけなくて、準備もいっぱいあってさ。最初から気持ち良くなんてなれないし、面倒だって思う奴もいるって」 「……」 「無理なら、面倒なら、普通でいいよ」 「は?」 「その、準備とか、慣らすとかしなくていいから、だからっ、……ン」  また、キス、された。濡れるやつ。そんで、濡れすぎて、唇の隙間から唾液が零れるくらいの、スケベなキス。 「ン、んっ……ン、かずっ……」 「面倒なわけあるか」 「和臣?」  ヤバイ。 「大事にしたいっつったの、忘れた?」 「……」 「ちゃんと、覚えておくように」  これ、ヤバイ。 「ずっと、覚えとけよ」  心臓破裂しそう。それと、スケベなキス二回で反応しててヤバイ。ジンジンする。 「あと、その顔、本当に、絶対に俺以外にはしないように」 「しつけぇよっ! す、するわけねぇだろうがっ!」  キスだけで、こんなになった時の自分なんて、他の誰にも見せねぇし、そんな顔しねぇよ。 「ったく、本当かよ」  だって、俺の好きなのは和臣で、欲しいのは、和臣だけなんだから。

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