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第31話 バターみたいにとろけてる

「これ、めちゅくちゃ美味かった。ごちそうさま。剣斗」  今日は和臣のうちで家デートだ。季節的にそろそろ終わりかな。新じゃがと新玉ねぎ、それと今日は奮発して角切りベーコン使ってオリーブオイルとバターたっぷりで炒めたやつ。すげぇ美味いんだけど、これ、新玉ねぎと新じゃがでないとできないやつでさ。今時期しか食べられない。一回試しに普通のジャガイモと玉ねぎで作ったことあったけど、全然味が違ってた。 「よかった。これ、俺すげぇ好きな料理なんだ。簡単だし。バターアホみたいに使うから、カロリーハンパないかもしんねぇけど、でも、ケチるとマズイし。お互いに実習でカロリー消費ハンパねぇだろ」 「バターの良い香りがしてたな。料理中」 「うん。俺、バターすげぇ好き。あさりとかもバターで炒めるとめっちゃ美味くねぇ?」  バターマジックだろ。それプラス、これは「新」物マジックも入るから、なんか最強な気がする。 「剣斗、潮干狩りとかすげぇ喜びそう」 「は? 俺ってどんなキャラなんだよ」  仰木にも同じ事を言われたけどさ。俺は貝獲りにはしゃぐ小学生かよ。 「可愛いってことだよ」 「……ン」  キス、されて、俺もバターみたいにとろけそうだ。  こんなに違うんだな。好きな奴に言われる「可愛い」は全然違ってる。 「ン、バカ」  バカって言ってる声も全然変わる。好きなだけで、言葉が変化する感じ。 「連休中、潮干狩りとか行こうか」 「あ、マジで? 行きてぇ。そんでそのあさりでボンゴレ作って食わしてやる」 「そうだ。あれって、今年連休のど真ん中だっけ? 豪田(ごうだ)が、今年の三年代表で連休の真ん中とかありえないって言ってた」  豪田、ってまたすげぇ強そうな名前だな。苗字だけで作り上げたイメージのゴリラ感ハンパねぇぞ。ウホウホ言いそうなキャラ出来上がったけど。  合宿自体は歓迎会も兼ねてるから一年が全員参加。でも、科ごとの年生を超えた交流と、あと就職の関しての情報交換及び、心構えうんたからかんたら、っていう理由で二年から四年までのそれぞれの科の代表が一名と、あと卒業生が何人が参加することになっている。 「あ、俺が実習組んでやってる女子。わかるかな」 「!」  もしや! おかめか? おかめの名前が豪田? ゴリラなのか? 「剣斗の入学式翌日、お前がばったり俺と豪田のツーショット見て、すげぇムスッとしててさ」  やっぱりだー! やっぱり豪田がおかめだった! あいつ、すげぇ名前だな。なんかそう考えると、あいつ、急に良い奴に思えてきた。なんか和臣ラブって感じがしてすげぇ嫌いだったけど、おかめって心の中で悪口言いまくってたけど、そっか、そんな最強の名前を背負って、あのぶりっ子してたのか。すげぇな、あいつ。 「え? なんで急に、涙目? 今、剣斗の頭の中どんな思考回路になってんだ?」  今? 今は、おかめ、頑張れっていう思考回路だ。 名前なんかに負けんじゃねぇぞって思ってる。 「誘われてるって思われるから、何か考え事しながら、涙ぐんだりしないように」  和臣のこと、俺はいつだって誘ってる。ほら、今もキス大歓迎で待ってるし。 「特に、あの仰木って一年の前では」 「あ……」 「あ、って、何? なんか」 「あー、いや、なんもねぇし、なんもならねぇけど」 「……」 「あの、えーっと、連休ど真ん中の、あれの」  見る見るうちに和臣の表情が曇りだす。ねぇよ。マジでなんもねぇ。それはさっき和臣がくれた「可愛い」って言葉が証明してくれてる。俺、仰木に言われても、はいはい、で終わる。けど、和臣に言われたら、バターみたいに溶ける。な? 全然違うんだ。だから、その。 「部屋割が仰木と一緒だったりして」  いや、ホント、俺は和臣一筋だから。 「お前なぁっ!」 「だ、大丈夫だって! あいつに可愛いって言われても、俺」 「はっ、あぁぁぁ?」  キャラ変わっちゃってるって。和臣、それ俺のほうに寄っちゃってる。今風イケメンじゃなくて、それ、ヤンキーだって。 「ホント、ダイジョーブ」 「そんなわけっ」  もう、いっこうにキスしないでどんどん話がそれてきそうだから、こっちからキスしてやった。部屋割り関係ねぇよ。俺、手芸好きだけど、腕っぷしならそれなりだかんな。一応、田舎のヤンキー舐めんなよ。 「頭突き、痛かっただろ? 俺、女じゃねぇから。襲われそうになったらぶっ飛ばす。その前に、襲われねぇよ」 「そんなの」 「わかるよ」  女じゃないけど、男の和臣が好きになったんだ。 「俺が好きなのは和臣だ」  女じゃないけど、和臣にはいつだって、抱かれたいって思ってるんだから。 「すげぇ、好き」 「……」 「大好き」  抱かれたいから、引き寄せた。キスを自分からしてしがみついて、ぎゅっと抱き返してもらうと嬉しいから、またキスをして。もつれ合うようにベッドに倒れ込んだ。 「あっ! ン、うなじっ」  うなじ吸われるの弱いんだ。こうしてベッドにうつ伏せで押さえつけられて、覆い被さられると、尚弱い。 「はぁっ、ン、耳、ダメ、気持ちイっ」  今日は和臣の部屋だから、和臣の匂いがして、そんで寝起きしてるベッドだっていうのがまた、すげぇゾクゾクして、どこもかしこも性感帯になる。 「あ、和臣。お願」  後ろに手を伸ばして、いつの間にか上の服だけ脱いでいた和臣の腹んところを指で撫でた。爪を立てて、カリカリって、猫みたいに引っ掻きながら振り返る。 「今日、いっぱいしてぇ」  一回だけじゃなくて、たくさんしたい。和臣だって、そうだろ? なぁ。 「あっ、あっ、ああっ、ン、乳首、やばっ」 「ホント、お前の感度、ヤバイ」 「あ、抓ったら」  乳首をいじられながら、背後から抱きしめられて、その腕がきつくてたまらない。 「好きだよ。剣斗」 「ン、あ、キス」  どっちからともなく重なる唇が嬉しい。ずっとこうしてたいって、濃厚に絡まり合う舌にとろけた。

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