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第44話 朝だもの
合鍵は交換し合った。俺の部屋のと、和臣の部屋の。だから家の鍵がふたつあることになってる。デートで寄った雑貨屋で見つけた猫の形の石がくっついたキーホルダーも買ってさ。俺のは黒猫、和臣のは虎柄の猫で、もう完全カップル仕様の合鍵ホルダーになってる。
そんで、それを使うこと数週間、季節は雨の多い梅雨に移り変わってた。
事前に連絡はするけど、合鍵使って、主のいない部屋に上がりこんだ回数は、もう数えきれない。たくさんあるのに、いまだに「おかえり」の一言を言う度に俺たちは盛り上がったりしてる。
言うのも言われるのも嬉しくなれる挨拶の言葉だったなんて、知らなかった。おかえり、たった四文字なのに。それを言うことにワクワクしながら料理作って留守番したり、それを言われることにスキップしそうなはしゃいだ気持ちで頼まれた買い物済ませたり。
けれどごくたまに、「おかえり」を言いそびれる留守番なんてこともある。
今日がまさにそれ。
寝ている間に帰ってくるパターン。
「……重」
寝返りがしにくくて目が覚めた。腰の辺りが少しだけ重くて、目を開けて、飛び込んでくる彼氏の穏かな寝顔。
昨日、和臣は大学の飲み会だった。そんで、おかめたちにキャーキャーチヤホヤされたんだろ。爆睡だ。
「ふわぁ……」
あくびをしながら起き上がって、外を見れば、久しぶりの快晴。青空がカーテンの隙間から見えた。最近ずっと曇りと雨が交互に続いてて、洗濯物がどうしても湿気てたんだ。だから、今日はめちゃくちゃ洗濯してやろうと思ってさ。二人分とマットやら何やら一緒に洗おうと思ってた。
まだ、和臣は起きないよな。っつうか、いつ帰ってきたんだよ。朝帰りだったら、ぶっ飛ばすかんな。つっても、俺も爆睡で帰宅時間なんて知らないけど。
酒飲んで騒いだか? いっぱい、楽しかった?
「……」
じっと、上から覗き込んで、ちょっとヤキモチ混じりの視線を投げても、本人は布団もかけずに、服のまんま熟睡してる。
「ったく、冬じゃなくても風邪引くだろ」
「ン……けん、と」
髪撫でたら、気持ち良さそうに口元をほころばせて、俺のことを呼ぶとか、ズルくね? なんか、夜遊びしてきた彼氏のだらしない寝姿を怒りたかったのに、ちょっと気分が上がったじゃんか。
「ったく、お前が俺の掛け布団になってどうすんだ」
言いながら、また頭を撫でて、布団をかけてやろうと思った。
「……」
けど、手が止まった。
「っ」
だって、横向きだった和臣をひっくり返したら、そこが、しっかり朝勃ちしてたから。
いや、男だから、そりゃ朝は硬くなるだろ。なるだろうけど、なんか、すげぇ。
「ふ、服皺になるから」
誰も聞いてないけど、言い訳じみた独り言を呟いて、前が張り詰めて窮屈そうなズボンのベルトに手をかけた。だって、これも、ほら、今日は久しぶりの晴れ間だから洗濯したいだろ? 下着も、服も全部洗ってやろうかなぁってさ。
思ったんだけど。けどさ――。
「っ」
下着ごとズボンを下げた拍子に飛び出すそれにひとり赤面した。だって、これ、なんかさ。なんか、どうなのかなぁって。
「ン……」
すげぇ勃ってるし、痛そうだったから。
「ん、ン」
キスをした。マウスじゃなくてペニス、のほう。ちょっと、ドキドキした。フェラ、したことないんだ。
「ん……ふっ」
口に含んだ瞬間ムクムクとでかくなるそれを舌先で舐めて、恐る恐る口に咥えてみた。熱くて硬くて、くびれのとこを舌で舐めて唇でキスをすると、ピクンって跳ねて反応してくれる。拙いしただ咥えてるだけじゃ、あんま気持ち良くなんてなれないかもしれないけど、俺は――。
「んふっ……ン、んっ……ン、かずっ……ン」
俺は興奮した。こんな熱くて硬いのが俺の中をあんなふうに行き来してるんだって想像して「はゾクゾクしながら舌を這わせて。この先端で奥を突かれる刺激を思い出しながら口に含んでその形を感じる。
口の粘膜に激しく擦りつけるだけで、ジンジンと腹の底が疼き出す。この形をいつもの場所でもっと大胆に感じたいって。
「ン、んんっン」
舌も性感帯になったりすんの? なんでこんなに舐めてる舌が気持ちイイんだよ。
「んっ……」
「剣斗っ? おまっ、何してっ」
あ、クソ、もう、起きちまった。こっちじゃなくて、こっちはもうすでに起きてたんだけど、主? 本人? のほう。
「ン、ん、ぁ、フェっ、ン」
フェラしてるっていいたかったけど、口いっぱいに頬張ってて無理だった。
「バカ、俺、風呂入ってないって」
「ン」
知ってる。だから服くらい脱がせてやろうかと思ったんだ。そう答えたいけど、もっと和臣のを舐めたくて、返事が二の次になって、首を振って、まだ咥えていたいって答えた。
「ん、ふっ……ん、んっ」
「剣、斗」
下手だけど、和臣のこれを口でイかせたい。俺の舌で気持ち良くなって欲しい。
「剣斗、の舌、すごく気持ちイイ」
ご褒美にもらったのは優しい掌がくれる「イイコイイコ」。
「! ン、ん、んんんっ」
そんなのズリぃよ。
「あっ…………」
「俺の咥えながら」
フェラしてる俺の髪を世界一優しい手で撫でるなんて、ズルいだろ。こんなの。
「あっあっ、あっ」
「イっちゃうなんて、ホント、可愛い」
まだ、腰がビクビク跳ねて、イくのが止まらない。
「寝込み襲うなんて悪いことして」
「あっ、だって……ン、俺っ」
「俺は我慢したのに」
「ン、ぁ、何?」
「スヤスヤ可愛い寝顔晒して、俺の枕抱き締めながら、俺のことを呼んでたのを襲い掛かりそうになったのを我慢したのに」
そんなの知らない。知らないけど、和臣のにおいがするのって、ただ鼻先で感じるだけでも気持ちいいから夢見は最高だった。
「あ、ちょっ! 待っ!」
あっという間にズボンと下着を一気に俺も脱がされて、どろりと濡らしたそこを朝日がキラキラ輝く中に晒された。恥ずかしくて急いで手で隠そうとしたけど、そんなの和臣の手に捕まって、ベッドに羽交い絞めにされるだけ。
「ン……ぁ」
「ドロドロ……これ、ローションいらないな」
「あっ、待っ、俺、イッたばっか!」
「仕掛けてきたのは剣斗だ」
「ぁ、あっ……ン」
指がくぷりと孔をぬめりと一緒に入ってきた。キュンキュン締め付ける孔の粘膜を掻き分けて指がズブズブと入り込んでくる。
「硬いな。昨日、ひとりでしなかったの? 俺の部屋で」
「あ、ぁ……しな、かった、だって」
指が前立腺を優しく撫でる。それだけでも今の俺は痛いくらいの快感で、身悶えるほど気持ちがいい。だから、こんな舌も性感帯になって、フェラしながら気持ち良くなれるレベルの俺にとってはさ。
「だって、和臣の部屋で留守番するたんびに、それ病み付きになりそうじゃん」
匂いが気持ちイイと直結した刺激のひとつになったら大変だから。いつでも欲しくなっちゃいそうだから。
「俺、和臣の匂い好きだもん」
「……あー、もう」
怒ってるような、困ってるような顔をして、寝起きばっちりの髪を無造作に手で乱す和臣がそっと前に身体を倒して、キスをくれる。チュッ、と触れて離れる、可愛いやつ。愛しさ溢れてついしちゃったって感じの。
「ン、ぁ、何? 和臣」
「今のは剣斗がいけない」
「ぁっ……ン、そこっ」
「そんな顔して、可愛いこと言う剣斗が悪いよ」
そう言って、色っぽく微笑んだ和臣が次にくれたキスはしっとり重なって、濃厚に絡まり合う朝用じゃないやらしいキスだった。
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