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第54話 恋

「うわ、もう日が暮れてる」  ずっと展示会場にいたから、空の色が朝の晴れやかな青空から一変して夕暮れに変わってたことにびっくりした。  展示会の少し熱のこもった空気が一瞬で変わる。日の落ちかけたこの時間の風は冷たいから気持ち良くて、少し早歩きをしながら、深く胸に冴えた空気を送り込む。 「俺は、納得できてないから」 「んー?」  振り返ると、風に髪を揺らしながら、和臣が少しムスッとしてた。 「さっきの、白いキルトの」 「神田?」 「そう。あいつ」  名前も覚えたくないらしい。 「何か言われたんだろ? 前に」  大学で見かける和臣とは全然違う膨れっ面の横に並んで、少しだけ遠くを見つめる。すごい楽しかったなぁって。展示会にすげぇって感動した。あそこにいるのは皆、ジャンルは違ってても同じ手芸が好きな人だとか、すごいことだろ。ずっとひとりでやって、ネットの中でしか存在しなかった手芸好きな人たちが、実際にあんなに集まっている場所は感動もんだった。 「前に、な。子どもの頃、ほら、あんじゃん、夏休みの課題。あれで自分で作った手芸作品を持っていったんだ。そん時、女の趣味じゃんって、言われた」 「は? じゃあ」  ずっと隠してた。手芸好きなことを誰にも言えなかった。和臣にだってあの時バレなきゃ言えなかったかもしんない。  ――変とか、思わないのかよ。おかしいとか。  ――なんで? 男でも手芸上手い人くらいいるだろ。  言わなかったら、あの会話はなくって、俺は和臣のこと好きにならなかったかもしんない。  ――俺はできない。剣斗はできる。  あの時くれた言葉も、ある意味、俺にとっては破壊力すごかったな。  ――ただそれだけのことだろ。  俺のビビって隠れてた壁をぶっ壊して、ぽかんとしてる俺の手をぐいぐい引っ張ってさ。  ここまで連れてきてくれたんだ。 「もう、気にしてねぇよ」  この展示会場まで。 「けどな、剣斗っ」 「いいって! 俺はむしろ感謝してる」 「……」  パッチワークと一緒だ。小さな布一枚一枚をくっつけて縫って繋げてそうやって出来上がっていくみたいに。あの時の悲しくさせた言葉も、そっからひとりでも黙々と続けてた手芸も、それでも寂しくて、語り合いたくて、ツイッターで手芸友達作ったことも、全部が、今ここにあるものに繋がってる。 「ほら……和臣、見て、これ」 「……」  ポケットの中にあるスマホが何か届いてると、小さく短く振動して教えてくれた。それは、さっき約束した神田からのメッセージだった。  ――作品見た。実用的なのを作ったんだな。機能的で、デザインもよくて、配色も綺麗だった。あの時は言えなかったけど、すごく良いと思う。  まだ少しばかり不服そうな和臣に笑って、そんで、スマホをしまった。怒ってくれるのも、嬉しいからさ。俺のことを思ってくれるからこそって、わかってる。だから、嬉しいよ。 「怒ってくれて、ありがとな」 「……」 「でも、今、俺、トータルで幸せだからさ」  いいんだ。そう言って、向い風に髪をボサボサにされた俺に和臣が眩しそうに目を細めた。その表情にたまらなく、胸んとこが甘く切なくなった。 「あ、はっ……ン」 「剣斗」  胡坐をかいてる和臣の上に座っていた俺は、呼ばれて、汗で少ししっとりしてるアッシュブラウン髪を指でくしゃくしゃにする。そんで、和臣が欲しがるキスをする。首を傾げて、唇に触れる。 「ン、んっ……ン、ふっ」  繋がりながらするキスが好き。すげぇ、ツボ。 「あっンっ……和臣っ」  この体位も好き。抱き締められながら、自分からも和臣のことを抱っこできるのが嬉しくてさ。 「あンっ!」 「っ」  キュンキュンする。身体も気持ちも。 「和臣、気持ちイ?」 「それ、今、訊く?」 「ん、訊く」  手芸展示会デートめちゃくちゃ楽しかった。すげぇ作品が見れたことも、コマメさんとリアルに話せたことも、神田のことも、自分の作品もすげぇ楽しかったけど、何より、和臣が俺の好きなことを共有してくれたことが嬉しかったんだ。 「気持ちイイよ」  俺も気持ちイイから笑って、ぎゅっと首に抱きついた。 「じゃ、もっと気持ち、く、してやる」 「ッ、剣っ」 「ん、あっ……はぁっ、ン」  濡れたやらしい音が響く。繋がった場所を自分から深くして、浅くして、また、もっと深いとこまで、和臣のことを招き入れて。そんで――。 「ン、和臣っ」  ゾクゾクする。じっと俺だけ見つめる視線にも、汗で濡れた額にも、雄の色気がたまんなくて、どーしよ、これ。 「ンっ」  ブルッと震えた。中にいる和臣にしゃぶりつくくらい、感じてる。込み上げてくる感じ。じわじわくる快感に、もう感度が振り切れる。ケツんとこが、熱くて、奥に欲しくなる。 「あ、和臣っ」  奥、して? 激しくして欲しい。長くて色っぽい指でも届かない、奥まで来て、そんで、そこを。 「剣斗」 「ぁっ、ン……和臣、ぁ、もっと」 「ん」  言いながら、口を開く和臣の舌が赤くて美味そうだった。だから、舌にしゃぶりつきながら、孔でも和臣に吸い付く。中が擦れて、奥を突かれて、足の指がきゅっと丸々くらい力が入る。 「自分から好きなとこ、擦ってる。気持ちイイ? 俺の」 「あっ、はぁっ……っ」  そこ、好き。前立腺のとこを和臣に擦られてるのたまんねぇ。  ここも好き。舐めるように先のところで抉じ開けられると腹の底んとこが熱くなる。 「俺の剣斗」  全部気持ちイイ。  奥も好きだよ。和臣しか知らない俺の奥のところを苦しくなるくらい貫かれながら、和臣の。 「あっ、ンンンっ…………っ」  和臣の低い声が俺を呼んでくれるのが、好き。 「ぁあっ……和臣っ」  全部、すげぇ好きだよ。キスもセックスも、怒ってくれた気持ちも、なんもかんも、和臣の全部に、この見た目でなんだけどさ。 「好き、和臣」  俺は、恋をしてんだ。

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