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第56話 良い子で留守番

 嬉しすぎると、ただ文字を打つだけでも顔がニヤけるんだな。  ――明日、和臣の部屋、行ってもいい?  レストランでテスト終わりの打ち上げじゃねぇけど、同じ科の奴ら数人と飯食ってる。ワイワイガヤガヤと賑やかな店内で、ラスボス鈴木のあの課題ハンパなかったなとか、テストのあの問題どうした? とか話しながら、俺の頭ん中は和臣頑張ってるかなぁとか、この料理、和臣好きそうじゃね? なんてことを考えたりしてた。  そんな中、テストお疲れ様。あんまハメ外して帰り遅くならないように、ってメッセージが和臣から届いてさ、浮かれた。  昨日の今頃の俺は、今まで詰め込んだ知識全部削除してラスボスに対抗できるものだけを詰め込み直してた。今の和臣はそんな状況なのかもしれない。一週間のテスト最終日直前に、ゼーハー息切れしてるかも。その中で一足先に楽になった俺へ優しいメッセージをくれる和臣に、ヤバイ、顔の筋肉が緩んで仕方ない。  きっと、明日、テスト終わったら打ち上げあんだろ? 女子ばっかだけど、でも、まぁきっと和臣の隣にはおかめが陣取るだろうから、ある意味安心かなって。だってあいつだぜ? 豪田おかめ子。鉄壁の守り人じゃん。酒飲んでくるんだろうな。遅くなるかな。遅くても会いたい。だから、行ってもいい? 「……おっしゃ」  思わず声に出た。  それに気がついた仰木が苦笑いを零す。 「お前らって、倦怠期ねぇの?」  そう呆れられた俺の顔にモロ出てたんだろ。嬉しくてたまらないって。明日、和臣に会えるのが待ち遠しって。  ――いいよ。鍵使って、勝手に入ってて。  そんな返事をもらって、どうしてもニヤけずにはいられなかったんだ。  お泊りセットまで持ち込んで、鍵開けるだけでもドキドキした。 「た……ただいまぁ……」  なんつって。久しぶりの和臣の部屋に入っただけで鼻歌がやめられないくらいに嬉しくてはしゃいでる。  ここに来る途中、久しぶりに寄ったスーパーで買った食材を、冷蔵庫に入れさせてもらった。納豆に、長ねぎ、オクラと、そうめん、めんつゆはちゃちゃと作っちまおう。そんで今日の俺の夕飯は、ぶっかけそうめん。  飲んで帰ってくるだろうあいつがサラッと小腹に入れたいかもしんねぇもんを買ってきたんだ。  何時頃になるかわかんねぇから、食べるか食べないかわかんねぇけど。  冷蔵庫の中にはマーガリンと卵。この時期だからパンも入ってる。あとは柴漬け。ばーちゃんかよって言いながら、扉のとこ、ポケットには甘いいちごオレに、甘いカフェオレ、甘いココアを見つけた。  どれもこれも和臣は飲まないものばっか。  どれもこれも、俺の好きな飲み物ばっか。 「あー……もうなんだよ。和臣、ズルくね?」  俺が今日部屋に来るために準備しててくれたのかもって思えて、嬉しくて、ツボゴリ押しされすぎて、その場にヤンキー座りで頭を抱えた。そして零れるのはフワフワ軽い綿菓子みたいな甘い溜め息。 「バカじゃねぇの……テスト勉強とか、ちゃんとしたのかよ」  しゃがんだまんま、口元を押さえつつ、チラッと主のいない部屋を見渡す。洗濯物も溜まってねぇ、掃除もしてあるっぽい、ちっとも雑然としてなくてさ。彼氏らしく、いない間にチャチャッと部屋を片付けてやろうかと、少しウキウキしてたんだけど。 「……はぁ」  整理整頓されてた。 「もう……」  良い子で待ってようと思ったのによ。  誰かお客でも来るのかよ。俺なんだから、こんなに綺麗にしなくたっていいのに。 「バカ和臣」  嘘、お客だから綺麗にしたんじゃねぇって、わかってるよ。俺が、今夜、ここに来るのを楽しみにしてくれてたんだって、部屋が教えてくれる。楽しそうに掃除してたって。笑顔で、俺好みのジュースを冷蔵庫にしまってたって。  しばらく触れてないから、たまらない。 「ン」  綺麗にしてある部屋の中、たったひとつだけ、あいつの朝の気配を残したベッドにさえ興奮する。 「っ」  和臣が起きた時のまんまっぽい掛け布団の捲れ方、あいつの動きに合わせてずれたシーツの皺、たったそれだけのことでも身体が火照る。火が点く。 「和臣……っ」  寝転がってそのシーツに鼻をうずめたら、和臣が使ってるシャンプーの香りが少しだけした。 「あ、あっ……」  オカズはそれだけ。たったのそれだけなのに。 「ン、ん」  ズボンの中に突っ込んだ手が濡れるくらいに興奮してた。胸いっぱいに和臣の残り香を吸い込んでする一人遊びに夢中になる。  だって、ここで和臣とたくさんセックスしたから。 「あ、ン……和臣っ」  ――剣斗。  掠れた声で呼ばれると嬉しくて、繋がったとこがキュンキュンした。 「ぁ、和臣ぃ……」  どうしよ。止まんねぇ。 「ぁ、ン、和臣っ、乳首」  いじって欲しい。もうコリコリに硬くなった乳首を痛いくらいに摘んで、爪で引っ掻いて欲しい。  ――剣斗、乳首いじられるの好きだな。腰が揺れてる。  そんなふうに乳首を躾けたのは、お前だろ。意地悪くそんなことを囁いて耳にキスをする和臣が、俺の乳首を、こんなふうにしたんじゃん。 「あ、ぁっ」  自分の指でぎゅっと抓って、引っ掻いて、こんなことするのは恥ずかしいくせに止められない。 「……かず、おみ」  だって、奥も、触って欲しい。孔のとこ、いつも和臣にしてもらってるとこ。そこもされたい。止まるどころか、もっと欲しくなってる。  触ったことならある。何度か、自分でどんななんだろって興味本位でさ、けど、自分の身体なのに、自分の指に驚いて口をすぼめるそこをそれ以上抉じ開けたことはなかった。 「んっ」  けど、和臣の匂いが、俺をおかしくさせる。 「ン、んんっ」  このベッドに突っ伏して、四つん這いになって、後ろから激しく突かれた。横向きで奥まで来られて、声が我慢できなかった俺は、枕をぎゅっと抱き締めて喘いでた。突き上げられながら、上下に揺れる天井を眺めて。 「ぁ、和臣」  たくさん、ここで繋がった。  欲しくて、欲しくてたまらない。  もう、こんなに火照った俺は、良い子で留守番なんてできそうもねぇ。 「あっ……」  欲しがりな俺は自分のを扱いて濡れた手で、わざと鈴口んとこを撫でて先走りを塗った指で、和臣のことを欲しがる孔を今日は夢中になって抉じ開けてた。

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