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第68話教えて欲しい事、教わりたくない事

 ほぼ毎日どっちかの部屋に寝泊りしてた。狭いから着替えは持参。今日はこっち、明日は俺んち。明後日は、どっちもバイトが遅上がりだからどうしようか? って、連絡しあって。  ふと、思ったんだって。  一緒に住めばいいじゃんって。  なんで今まで気がつかなかったんだろうと不思議になるほど、スッと着地した。 「和臣……風呂……少し広いとこがいい。こっちも……俺のとこも……狭く……」 「まぁ……そうね」 「そんで、湯船に……」 「こら、寝るな」 「だって、気持ちイイ」  今、すげぇ安心しきってる。ふわふわぽかぽか、何これ、極楽?  シャンプーの泡がもっこもこの中、マッサージをするように俺の髪を洗ってくれる指の心地に眠くならないわけねぇじゃん。コンディショナーでツルツルに潤った髪を優しく指で梳かされて、蕩けないわけないじゃん。  俺はこの指に捕まったんだから。  ご褒美に頭撫でられて、思いっきり懐いた俺に、イチャイチャ後の極楽バスタイムで寝るなって、難しいだろ。 「ほら、流すぞ」 「んー」  俺は湯船の中。頭を浴槽に縁に置いて、頭を洗ってもらってる。マッサージスパにでもいる気分だ。行ったこと、ねぇけど。目を瞑って上を向くと、すでに洗い終えた和臣が真っ直ぐ俺を見つめてた。 「……かっけぇ」  思わず呟くと、爽やかに口元だけ微笑んで「ありがと」なんて、マジで遊び人がしそうなサラッとした返事をして、唇にキスをくれた。 「なぁ、和臣」 「んー? 耳んとこ泡流すぞ」 「ん……ホントに一緒に住むの?」 「いや?」 「んーん、なんか不思議だなぁって」  半年前くらいの俺は告れたらそれだけで大満足って思ってた。恋人してもらいたいとか、彼氏になって欲しいとか、米粒ほども考えたことなかったよ。 「もう温まった? そしたら、こっち」 「?」  見惚れてたら、頭を撫でられて、風呂の縁に腰かけろって言われた。中に出してもらったから、それを掻き出さないといけないってことなんだけど。 「え、いいよ。まだもう少し後で」 「ダーメ。腹痛くなるだろ」  別に、和臣ので腹痛くなってもいいんだけど、なんて言ったら、もう中出ししてくれないかもしんねぇから、渋々、湯から出て、和臣と向かい合わせになるように縁に腰かけた。 「落ちないように俺に掴まってて」 「ン」 「痛かったら言って」 「ん……ぁっ」  中に入ってくる指に自然と身体が震えた。 「あっ……はぁ……ン」  そして、感じるトロリとした名残り。 「ン、和臣っ」  中をまさぐられて、首にしがみついた手が力を込めた。 「おっと、剣斗、あんまそっちに体重かけるな。湯船に落っこちる」 「ン、あっ」 「ホント、一緒に住むとこは風呂の広さも気にしような」 「あンっ」  セックス後のこれはイチャイチャじゃなくて、処理なのに、ぴちゃぴちゃ聞こえる音さえ気持ち良くさせるから、掻き出してくれてる指をきゅんと締め付けた。指先に前立腺を擦って欲しそうに腰が揺れる。 「あ、あっ……ぁっン」 「剣斗、煽らないように」 「煽って、ねぇって……ぁっ!」  欲しがる場所を指にイイコイイコされて甘い悲鳴が風呂場に響いた。頭を撫でてくれたら、それだけで嬉しかったっけ。今は、その指で全身触って欲しくて仕方ない。この指にたくさん教わった。  キスも。  セックスも。 「な、ぁっ、和臣」 「?」  初恋で射止めた恋人の唇に触れたくて手を伸ばす。 「俺の初恋……たくさん、和臣に教えてもらったけどさ」  覗き込んでくれる瞳をじっと見つめ返しながら、柔らかくて、優しい唇にキスをした。  恋の怖いとこも、楽しいことも、幸せなとこも、くすぐったいとこだって、和臣に教えてもらったけど。 「でも、失恋は、あんま、教わりたくねぇ……かもって、思った」 「……バカ」 「あっ! ちょ、ぁっ、そこ、ダメだって」 「それは教えるつもりないから」 「ぁ、ンっ……和臣、そこ、ダメ、またっ」  また欲しくなるじゃん。 「掻き出したのに……」  また、剣斗のことを欲しくなるだろって、名残を掻き出してた指を抜いて、かっけぇ顔で深くて濃いキスをしながら、また、俺の欲しいものをくれた。  ガラガラ、ガッシャーン。料理を作ってるとは思えない音がする。 「あ! やばっ! とっ、とと……うわあああ! やべ! あ~あ」  うわ……これ、すげぇレアじゃね? おー、慌ててる。焦ってる。困ってる。 「なあああ、和臣いい、腹へったああ」 「ちょ、待って! わかってる! って、あぶっ……」  俺、腰立たないんだ。昨日いっぱい中出ししてもらって、掻き出すついでにおかわりして、もうヘロヘロ。朝からベッドでごろ寝決定。 「大丈夫? 手伝おうか?」  そんな俺を世話してくれる和臣は只今朝食作りに悪戦苦闘中。おにぎり作るのに、米が零れて、その間に煮立てた味噌汁が吹き出して、卵焼きは――。 「大丈夫! 剣斗はそこでゆっくりしてていいからっ!」  きっと、あのお皿に乗ってるのがたぶん、卵焼き。 「ホントかよ」 「ホント!」 「っぶ、聞こえてた。はーい。ゆっくり待ってる」  きっと、あの和臣はたぶん、誰も見たことがない。朝飯作るのに小さなキッチンを行ったり来たり、独り言炸裂、大慌て。大学で見かける、優秀な建築科のイケメンでもなくて、二つ下の高校生に勉強を優しく教えてくれる先輩でもなくて、ただ一生懸命、好きな子の世話をやく。 「なぁ、和臣」 「んー?」  めちゃくちゃカッコよくて、優しくて、誰より強くて、柔らかい、ただの男子。 「早く一緒に住みてぇ!」 「……」 「大好きだよ」 「……俺も好、うわああああ!」  俺の初恋の人だ。 「ちょ、和臣! ヤケドすっから!」  俺の好きな人。 「もおお、和臣、どうやってひとり暮らししてたんだよ。ったく。おととと」  よろけた俺の腰を掴んで支えてくれる。ごめんって、苦笑いを零す顔が可愛かった。 「無理、家事なんてほぼしてこなかったから」 「ったく。他に何か食う? 俺、作るよ」 「ほぼしてこなかったから、教えて? 剣斗が俺に、そんで、俺は」  可愛くて、カッコよくて、ちょっと脆いとこもある。 「俺は、剣斗に、やらしいことをしてるから」 「教えてくれるんじゃねぇのかよ」 「教えたら、もっとエロ可愛くなるから、ダメ」  世界一俺を甘やかそうとする、俺の、彼氏。

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