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浴衣の君編 1 初恋、いまだ冷めやらず

「え? 今、剣斗君、なんて言ったのっ?」  驚愕のあまりなのか、なんか怒られてる気分になる口調でそう言った京也さんが目を見開いた。同時に、びっくりして京也さんが手を離した、これから裁断される皮生地が、ビタンと大きな音を立てて作業台の上にのし餅のごとく、横たわった。  のし餅って、俺、好きなんだよなぁ。  あの、乾燥前のやつ、一回でいいから食ってみたくない? すげぇ美味そう。つき立ての餅と同じ感じなのかな。それだったら、カチカチに乾燥させちゃうのもったいなくね? なんてことを、せっかくの美形が台無しになるほど口をあんぐり開けた京也さんを見ながら思った。 「俺、和臣が初めてですよ、って言ったんす」 「……ウソ、でしょ?」 「ホント、ですってば。京也さん、これ、在庫足りてないんで発注かけてもいっすか? あー、あと、ネットのほうから受注あったの確認してくださいっつったのに」 「ちょっとおおおおお!」 「な、なんすか」  あ、今度は鼻の穴が広がってる。美形が台無しすぎだろ。 「在庫、いいっすか? 発注」 「ちゅう! え? は? じゃあ、チュウは? ファーストキスは?」  おっさんみたいな思考回路だな。ちゅうって単語がさ。 「? だから、初めてっすよ」 「ぎゃあああああ! だ、だだ、だって、だって、剣斗君! 今いくつ?」 「二十歳。秋生まれなんすよ」 「マジか! じゃ、じゃじゃじゃじゃじゃ、じゃあ」 「だから、酒の初飲みもきっと和臣とっすね」 「十九まで手付かずとか! 尊すぎる!」 「……」  若干キャラが崩壊しつつある京也さんの絶叫に耳がキーンってなった、そんな、彼氏との同棲丸一年を目前にした大学二年目の夏が来た。 「あっつうぅ」  今年の夏はすっごい猛暑なんだと。朝からじりじりとすごくて、厨二じゃなくても「あぁ、夏の日差しに溶けそうだ」なんて呟きたくなるくらい。 「おかえりー。外、今日ハンパなかっただろ」  うちに帰ると、和臣が飯を作ってくれてるところだった。カフェで働いてるから、パスタとか超絶美味くてさ。マジで、ほっぺた落ちるレベル。 「今日の夕飯、トマトとベーコンの切れ端たんまりもらえたから、パスタにした」 「マジで? やった! 俺、和臣の作る飯マジ好き」  はしゃいで、ひょっこりとと和臣の隣から手元を覗き込むと、トマトソースのいい香りがした。 「うまそ……」 「美味いよ。ほら、つまみ食い」 「ん」 「……どう?」  首を傾げて、覗き込みながら、ふわりと微笑む和臣に今度は胸のところがくすぐったくなる。  同棲始めてから、あとちょっとで一年になるのに、まだ全然ダメなんだ。 「う、美味いあああああ! つ、つか、近けぇ……その、俺、今、汗臭いからっ」  まだ、全然、ドキドキがすごくて汗臭いとか気にしちまう。なんかもっとこう落ち着いたりすんのかなーって思ったんだ。 「そんなの気にならないっつうの」 「お、俺が気にするんだっつうのっ」 「好きだけど?」  ほら、腰を引き寄せられて、トマトソース並に真っ赤になっちまう。 「んひゃああああああ」 「っぷ」  抱き締められて、腰ンとこを密着させながら、首筋のところをぺろりと舐められてあげる声だってこんな色気皆無でさ。 「汗なんて舐めるな!」 「なんでよ? 美味いぜ? しょっぱくて」 「んぎゃああああああ!」  叫びながら自分の首筋を大慌てで手使って隠すと、それが楽しかったのか、見事な赤面がおかしかったのか、和臣が口を開けて笑ってた。  ちっとも落ち着かない。ちっともしっとりなんかしてねぇ。色気なんてどっこにもないけど、俺は京也さんもびっくりするほど遅咲きの初恋にブンブン振り回されっぱなしだ。 「あ……ン、これ、ダメ」  対面座位っていうやつ。これ、すげぇ好き。昨日のバックも、あと、なんだっけ俺だけ寝そべって、横向いて、そんで、座った和臣と合体って感じにするセックス。松……。 「あっ、やだっ、あぁぁぁぁっ」  ぐりっと奥をペニスで抉られながら、自分の体重でそれすら飲み込んでもっと深いところに招いたら、快感で、考えたことが吹き飛んだ。  和臣とする気持ちイイこと全部がすげぇ好きだけど、これ、ぎゅっと抱きつけて、抱き締められて、そんで、エロくてさ。キスもできるから、ダントツで大好きなんだ。 「ダメ? そ? 剣斗のこれ、すごい濡れてるけど?」 「ひゃぁっ……ン、だって、イっちゃいそ」 「いいよ。一回イっときな」 「あっン!」  その先走り垂れ流しのペニスを和臣の手で扱いてもらうと我慢なんてきかない。たまらなくて、腕で和臣の首にしがみつきながら、腰をくねらせる。  ずちゅぐちゅとやらしい音を立てながら、キスで舌もセックスみたいに絡めれば、なんかもう、全身蕩けそう。 「あぁっンっ」  そして、乳首を舐めて齧ってもらいながら刺激にきゅんきゅん締まる孔で奥深くに突き刺さる和臣のことも抱き締めた。 「剣斗」 「ん、ぁっ、ン、ダメ、も、イくっ、ぁ、あっ」 「いいよ。イって」 「あ、ぁ、ああああああああっ」  耳にキスされながら、甘い声でそんなことを囁かれたらさ、気持ちよすぎるんだって。和臣とするキスもセックスも、全部、すげぇ気持ちイイ。 「も、和臣……っ」 「ん?」  俺はまだ初めての人にいまだにドキドキするばっかで、恋に振り回されっぱなし。もう少し落ち着いてるかなぁって思ったんだけどさ。 「今日、京也さんに初恋が和臣って言ったらビビられた」 「……」 「全部初めてって言ったら、すげぇびっくりされた。遅いって」  恋愛の経験なんてないんだから、まだ色々不慣れすぎるとは思うけどさ。 「和臣……も、早く」 「?」 「まだ、和臣一回もイってない。だから、ぁ、ン……早くっぅ……ん、んんんっ」 「剣斗」  不慣れなりに、俺は和臣のことすげぇ、愛してる。 「あ、あっ……ン、和臣っ」 「剣斗」 「ひゃっ……ン」  名前を呼ばれただけで胸が高鳴るくらい大好きなんだ。

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