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9.5 かっ飛ばせ、かっちゃん。

 これは……すげぇ。  すげぇ。うわ、マジか。マジすか。そんなキラキラで眩しくて。 「うわぁ、すげぇ綺麗だな」  マジすか! 「なぁ、剣斗、剣斗? おいっ、剣、ふごっ」 「しいいいいいい! 静かにしろっ! 和臣!」  今、俺の名前をでかい声で呼ぶなよ! 聞こえちまうだろうが! 「ふご、ふごごご、ふごっ……ふご」 「しいいいいいいい! つってんだろ!」 「っぷは! お前の、しいい、のほうが断然うるさいだろ。なんだよ。急に、イルミネーション、ほら」 「やばっ!」  慌てて、その場にしゃがみ込んだ。ぽかんとしてる和臣がアホみたいに棒立ちのまんまでいやがるから、慌ててそれを引っ張って、その場に強制的にしゃがみ込ませる。 「な、なんだよ。お前、もしかして、地元の中学校のヤンキーズでも見つけたのか? ヤンキーって派手なの好きだもんな」  なんだ、そのヤンキーズって、どっかの野球チームか? あいにく俺は野球はてんでできないからな。俺ができるのは正月にやるテーブルゲームの野球、かっ飛ばせカッちゃん、だけだからな。あと、野球拳。あ、和臣と野球拳とかしてみてぇ。楽しそう。じゃなくて。そうじゃなくて。 「あそこ!」 「?」 「ほら! 向こうの段々になってってとこ!」 「段々って、畑か。階段のとこだろ? だから、そこに……あ」  見た? 見つけた? 見つけちゃった? あれ、そうだよな? な? 「京也と仰木じゃん、って、やめっ、痛、痛いっつうの、おい、剣斗、興奮すんな。お前その見た目で肩パンって、普通にガラ悪いヤンキーがイケメン大学生にたかってる図になるぞ」  自分でイケメンとか言うなよ。実際イケメンだけどさ。 「何? あの二人ってそうなわけ?」 「わっかんね。なんか、仰木が最近、京也さんのとこ、手伝ってやるとかよく言うけど、まさかなぁって」  今日のもそうだった。荷受しないといけないって、昨日、京也さんはイルミ見てこいっつったけど、でもそれ俺の仕事だしさって、大学の講義の合間に仰木に言ったんだ。  ――俺が荷受やっておいてやるよ。  何気ない感じで、ふーん、ってしながら、次の講義が実習だったから、淡々と着替えながら、そう言ってくれた。 「ふーん」  そうそう、そんな感じだった。 「なぁ、あれ、仰木ってさ」 「……」 「すげぇ、親切だよな」 「……は?」 「けど、なんで、イルミを京也さんと見に来てんだろ」 「……はぁ?」  だって、ふーん、ってしてたんだぜ? もしも、京也さんのことが好きなんだとしたら、もっとテンション上がるだろうが。その前の、チョコの時もそうだ。あんま口に合わなかったんじゃね? って、言ったら、ふーん、って顔してた。俺だったら、めっちゃテンション下がって、でも、じゃあ、今度はもっと美味いのをってテンション上げて頑張るのに。 「剣斗、お前、そこ、どんだけ恋愛初心者だよ」 「えー? だって」  よくわからないけど、あのままくっつけばいいのにと、思った。思ったけど。 「ほら、行くぞ。剣斗。見つかると邪魔になる」 「ちょ、な、なぁっ! 和臣っ!」 「んー?」  思ったけど。 「か、和臣はどう、なんだよ」 「何が?」 「その、京也、さん……の」  したこと、あんだろ? 色々と。 「お前ね」 「わ、わかってるよ! そういう感情はないの、わかってっけど! けど、わかんねぇもん。俺、和臣が、他の奴としてたら」 「……」 「マジでガン泣きする」  想像しただけで、心臓が潰れそうに痛くなる。きっとずっと和臣のことが好きなんだ。期間無期限。だから、この後何があってもどうなっても、もしも万が一、億が一、もっともっとすっごいレアなこととして、和臣が他の奴と笑ってイルミ見てたら、手を繋いでたら、キスしてたら。 「っ」  ダメだ。すげぇ、心底やだ。ヤダよ。 「お前ね……」 「だ、だってっ」 「ったく。なんで、仰木の気持ちには鈍感なくせに、そこだけ敏感なんだよ」 「だって、和臣のことっ」  好きなんだ。大好きすぎて、涙腺すごいことになってるんだって。最近。 「まぁいいや」 「和臣?」 「あっちは、まぁ、あれじゃね? 時間の問題。あんな顔でイルミネーション見てて、ただの見学ですっつったらびっくりだわ」 「……」 「そんで」  和臣が笑いながら、寒いのにわざわざ手袋を外してまで、俺の手を掴んで、指を絡めて、恋人繋ぎで歩き出す。 「オープンしたばっかのステーキ屋はまた今度な」 「へ?」  掴んだ手が力を込めて、俺を引っ張って、そして、寒いからって、コートのポケットに連れ込んでくれた。 「仕方ないだろ? 教えても教えても、まだ覚えてないみたいだから」 「和臣?」 「今日は、お前専属の先生が心底惚れてる、ぞっこんの相手のことを教えてあげよう」 「!」  見た目、だっさい金髪オールバックで、すげぇ、可愛い子、なんだけど。覚えた? そう、俺の耳元にベッドの中と同じトーンで囁やかれた後、ポケットの中に連れ込まれた手が指先に翻弄される。 「っ、和臣、ここっ」 「今夜は家飯にする」  瞬く光の林を通り抜けて、俺と和臣は二人のうちに、さっむい中、鼻先を真っ赤にしながら手を繋いだまま帰ることにした。 「俺がお前の好きなオムライス、チーズ入り作ってやるから、って、そこでイルミネーションばりに目を輝かすなよ」  そう言って笑うその唇に早くただいまの、おかえりの、キスをしたいと思いながらの帰り道は寒いけど、これっぽっちも寒くなかった。

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