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「ひねくれネコに恋の飴玉」 16 いっちゃうの

 なんで年末って、皆「少し急いでるんだろう。人が多くなるからかな。歩道で行きかう人たちも、道路で渋滞ぎみの車たちも、どこか忙しそうだ。  だからかな。 「へぇ、柚葉の実家はけっこう寒いとこなんだぁ。え、もしかして、玄関が雪で埋もれて開かない感じ?」 「あんたな。電車で片道二時間っつってんじゃん。それ五時間越える距離だろ」 「えー? だって、始発っていうから。もう旅行みたいな感じなんだもん」  取れたチケットがその時間だっただけだって、笑った君と俺だけが穏やかな空気をまとってる気がした。  帰宅ラッシュのこの時間帯、俺たちだって帰宅途中なんだけど、歩調が違いすぎて、まるで散歩デートみたいなノリ。そんな会話をしながら、急がしそうなダークカラーの一団の中に紛れてる。 「でも、片道二時間だって充分遠いでしょ。でも、乗り換えがないなら、寝てられるね」 「……まぁな」  本当は明後日帰りたいんだってさ。チケットが取れなくて、明日になったんだと、少し不機嫌そうだった。  この年末年始に一人分だからって、乗車券をそんな直近でなんて買えないでしょって言ったら、今度は文句を零す矛先がご両親へと向かった。なんで帰省が明々後日じゃダメなんだとぶーたれている。  明々後日だと大晦日で、その日に駅まで向かえに車を出してる暇がないんだそうだ。親御さんに断られてしまった。明日か、明後日、そしたら車を出せるからと。車を出して迎えに着てもらわないといけないとこに住んでいて、それをタクシーで代用したらとても高くついてしまう。バスは……あるけど、あまり本数がないらしくて、という、どうにも不便なとこが柚葉の地元。  柚葉も明日から実家に帰省。  剣斗君たちも帰省。 「京也さんは? 帰んねぇの? さっき、帰らないっぽいこといってたけど」  俺は、帰省しない、かな。  店は閉めておくけれど、受注は受け付ける。だから、安心して剣斗君は英気を養って、年明けたんまり頑張ってよって笑って話してた。 「んー、地元はちょっと遠いんだ。飛行機使ったほうが便利なとこ。だから、毎年、この時期にはあんまり帰らない、かな」  もともと、あまり地元には戻らないけれど。 「そっか。そしたら、俺はその二時間、あんたにラインで相手してもらうからいいよ」 「はい? あのね、俺は暇じゃないんだけど?」 「けど、剣斗が言ってたじゃん。最近ぼーっとしてることがあるって、暇なのかと思ったって」  それは君の事を考えてたからだ。なんてことは言わないけれど。 「俺のことを考えてたりして」  言ってあげないけれど。  二人っきりになると、柚葉はずっとタメ口だった。  自転車には乗らず、手で押しながら。カラカラと音を立てるタイヤもゆっくり、俺たちの会話もゆっくり。これじゃ、まだまだ家には辿り着けそうもない。 「ね、手袋は? それで自転車乗るのとか苦行じゃない?」 「あ、それなんだけど、昨日あんたの店に置いてきたっぽい」 「え?」  してた? 手袋?  してたんだって。でも、俺は全く覚えてないよ。それに掃除した時にもなかったし。えー? じゃあどっかに落ちてるのかなぁ。そう呟くと、小さく肩を竦めて、そうなんじゃねぇ? なんてのんびりした答えが返ってきた。 「じゃあ、これ、使ってよ」  今、俺がしてたやつ。君のほうが手は大きいかもしれないけど、でも男女ほどの差はないんだから、大丈夫でしょ。 「え、いいよ」 「いやいや、そういうわけには」 「いいって」  自転車を押してる間、手、むき出しじゃん。絶対に寒いよ。今年の年末は寒波どころじゃない大寒波がやってくるんだってさ。お天気お姉さんが心配そうにそう言ってたくらいなんだからさ。 「ホント平気。作業実習場もさっみいから、慣れてるし。あんたの手のほうが大事だろ」 「……」 「職人やってんだから、大事な手じゃん」 「けど、手……寒いよ」  今年の年末は寒波が来る。きっとものすごく寒いだろうけれど、君はもっと寒いとこに帰らないといけないんだね。 「寒い……」 「京也さん?」  あ、どうしよ。 「寒い、から」 「……」 「うちで、お茶、飲んできなよ」  なんか、急に、今、したくなってしまった。 「飲んで……」  なんかさ、急に、君とセックスしたくなっちゃった。  なんでかな。ふたりっきりになったら、言葉の距離が近くなったから、なんか、身体の距離も近くなりたくなってしまったのかも。それかかじかんだ君の手を見たら切なくなったから、そのせいかな。 「あっ……ン、柚葉っ、ぁ」  あっためてあげたい、なんて思っちゃったんだ。  それとさ、明日から、遠いとこに行っちゃうんだーって考えたらさ、今すぐ、中、君でいっぱいにしたくなっちゃった。 「京也、さんっ」 「ここ、でいいから、ぁっ……して」 「っ」 「お願い……ン、ぁ、平気、だから、ここ」  玄関で靴を揃える暇も与えず、引っ張り込むように年下の君を連れ込んで、部屋の中を案内するものおろそかにして、ソファに一緒になって沈んだ。 「まだ、少し、柔らかい、よ、ね?」 「……」 「俺があっためてあげる」  ぺろりと冷たい唇をあったかく濡れた舌で舐めてあげた。俺の中もこのくらいあったかいよ? って、わかるように舐めて、そして舌を絡ませ合うキスをする。 「ンっ」  始発で出ないと、いけない。だから、早く、しようよ。セックス。 「あ、あぁっ……ン」 「京也さん」 「あ、来て、柚葉の、硬いの欲しい」  自分の舌でしゃぶって濡らした指をくぷりと咥えさせて、視覚的にも誘った。ソファの上で大胆に脚を広げて、昨日作業台の上でしたセックスよりももっと性急に君を欲しがってみせた。指を、君の太くて固いペニスの代わりにして、君ので、どんなふうにそこが気持ち良さそうにするのかを見せた。 「早く、挿れ、ン、んんんっ」  圧し掛かられ、キスで唇に噛み付かれ、舌を差し込まれる。くちゅ、なんて音のするキスを深く、まさに「交わし合い」ながら、カチャカチャとベルトを外す音にすら身悶えた。早く欲しいって思って手を伸ばしたら掴まって、そのまま服を脱ぐのすらもどかしいと、君が来た。 「あ、ああああっ」 「っ」  熱くて硬い柚葉のに貫かれた。 「あっ、ぁっ……ン」 「……京」 「……ぁっ……ン、柚、葉……」  イっちゃった。 「ン、好き」  好きな人のペニス、挿れられたら、もう、イっちゃった。 「ぁ、あンっ……ン、ぁ、やぁ、ン、これ、気持ちイイ」 「っ」 「もっと、奥も、して」  欲しくて欲しくて仕方がなくなっちゃった。 「あンっ……ぁ、ンっ」 「っ」 「ンっ」  揺さぶられながら、君を見上げた。激しく腰を打ちつけながら、こっちを熱っぽく見つめる君の顔がたまらなくて、ただ求めて手を伸ばす。 「ぁんっ……柚葉ぁ」  その手を掴んで、指先にキスをしてから、覆いかぶさってくれた君の重さと、ぴったりとくっつく体温と、それから甘い甘いごちそうみたいなキスに、また、軽く。 「ぁ、ン、それ、好き、気持ちイイ」 「俺も、すげ……イイ」  イっちゃった。

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