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「ひねくれネコに恋の飴玉」 20 暇正月

 皆さ、年末年始に帰省して、何してんの? 普通は、何すんの? 新年のご挨拶して、お節食べて? そんで? 「んー、これは、Aだな。A」 「えー? Bでしょ。どう見たってBでしょ」 「違うって、絶対Aだって、京ちゃんも、Aでしょ?」  どっちだっていいよ。えー、でも、びーでも、なんでもいいよ。興味ないよ。お茶の間で解答してたって、賞金もらえないんだからさ。むしろ、このお正月クイズ番組に一生懸命に取り組む親戚一同のほうが興味深いよ。  ねぇ、まだ午前中だよ? さして飲んでもいないのに、こんなに盛り上がってるけど、これ、アルコール入ったらどうなるわけ?  そこで自分の子ども時代を思い出して、一抹の不安がよぎるけれど、よぎらなかったことにしたくて、慌ててその記憶に蓋をした。 「ほぉら! Aでしたー!」  歓喜の声を上げる勝者と、残念そうにうなだれる敗者。でも、全然、ここは宇貝家でテレビ撮影なんてしないけどね。  出演者同様のテンションでリアクションをしまくる親戚を眺めてた。そして、次の問題に行こうとした時だった。またチャイムが鳴った。 「あ、よしお、かな」  親戚のおじさん。この人で、宇貝家全員が集まったことになる。 「いや、遅れちゃって、ごめんごめん、あ、明けましておめでとうございます」  こちらこそ、明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いいたします。そんな定型文のやり取りがしばらく続き、そして久しぶりにこの席に加わっている俺が。 「えー?  京ちゃん? ずいぶん見違えたねぇ」 「あはは、そうですか?」 「うわぁ、敬語なんて使っちゃってぇ。大人っぽくなったなぁ。あと、なんか芸能人みたいだね。あの京ちゃんがねぇ」  と、言われ、またもやしばらく挨拶が続く。  柚葉は、何してるのかな。同じ感じ、なんだろうけど。  親戚の集まりの中スマホいじってられないもんね。でも、ちょっとだけなら。 「よし、そしたら全員揃ったから」  ――今から初詣、行って来ます。  さっと、それだけ打った。 「初詣に行こう」  それから少しだけ間をおいて、スマホが振動した。こっそりと開けてみれば。  ――こっちは今、クイズ番組皆で見てる。  そんな返信が返って来て、思わず吹き出して笑ってしまった。 「あれ、今年はあんまり並んでないなぁ」  神社には長蛇の列ができていた。でもその列に並びながら、写真を撮っては柚葉に見せてた。空が青いとか、それこそ人がすごいんだけど、とか、お互いに写真を撮って見せ合っている。  いとこも合わせてけっこうな人数がぎゅっと固まって並んでいるけれど、この混雑の中だったら、まぁ、スマホをいじるのくらいいいでしょ。  ――これから鐘つく。  そんなメッセージと一緒に写真が送られてきた。二人だけのやり取りだけど、一応、通行人があまり映り込まないようにしているんだと思う。それでも前に並んでいる女の子の斜め後ろの横顔が少し見えた。可愛い感じの子。柚葉と同じ歳くらいかな。もしかしたら背後のいるイケメンのことをチラチラ伺ってるかも。  ――そっちは? 京也さんはまだ順番待ち?  気にしてね? 俺のこと。  ――こっちはまだまだだよ。  そんな可愛いことを考えながら、また周りの写真をできるだけ高い位置から撮ろうとした時だった。 「あれ? 宇貝?」 「……」 「宇貝、京也、だよ、な?」 「……ぁ、もしかして、佐藤?」  もう何年も会っていなかった、クラスをまとめる役になることが多くて、でも、本人もそういうのがけっこう好きなようで、楽しそうにしていた同級生だ。学生当時はそんなに仲がいいほうじゃなかったけれど、同窓会だ同期会だって開く役回りを受け持つことが多いらしくて、連絡はたまに取っていた。 「なんだよー! 帰ってきてんじゃん」 「あー違うんだ。父が怪我をしてさ」 「え? マジで? 嘘! 大変じゃんか」 「アハハ。たいした怪我じゃないんだけど。初詣の甘酒飲みに来てるくらいだし」  そっか、それならよかったと自分のことのようにホッと胸を撫で下ろしている。 「えー、なんだよー! 戻ってきたんなら、連絡してくれよー! っつうか、明日、そしたら来れない? 同窓会。けっこうレアなメンバー集まってんだよ」 「あー……、いや、明日には戻ろうと思ってて」 「え! なんで!」  なんでって言われても。父の怪我はたいしたことなかったんだし。親戚には成人式以来、何年かぶりに顔を見せられた。挨拶も終わったことだし、明日には戻ろうかと思ってる。一人分くらいどうにかならないかなって。こっちにいても暇だし。 「そっかー」 「うん、悪いな」 「オッケー、そしたら声かけてみんべ」 「は?」 「正月なんて、実家いたってコタツん仲で蜜柑食って終わりでしょ。いいよいいよ。お節も飽きた!」 「ちょ」  そこから楽しげに、そしてすばやくスマホで何かを打った。メッセージを送ってそう待ってなかった。 「オッケー! 場所ゲット!」 「え、ちょ!」  暇なのか? イヤ、暇なんだろうな。クイズ番組にそこまで真剣に一視聴者として取り組めない。 「や、だって、宇貝出席なんて、レアすぎるしっ」  いや、レアすぎるとか、俺、モンスターじゃないから。レアキャラ扱いとか、されても。 「あら、飲み会?」  でも、こっちでまたクイズ問題に盛り上がってるのを見物してるのも、微妙だし。 「あー、うん、行って来ても平気?」  二者択一なら、やや、モンスターとして酒場にいるほうがまだ、暇じゃないかなって、そう思った。

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