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「ひねくれネコに恋の飴玉」 24 ワタワタ高嶺の花

 神様が、俺たちのことをなんかフォローしてくれてたりして。 「ン、柚葉っ……」  深夜便っていうのがあったんだって。電話がブチッと切れて衝動的にこっちまで来れそうな航空便をスマホで探して、そしたら、奇跡的にもちょうどの便があって、またまた奇跡的にチケットまで取れて、なんて、ドラマチックなことあると思う? 特急電車と新幹線使ったら、数時間かかるところを一時間ちょっとで来ちゃうなんてこと、あると思う?  そんなことされたらさ、まるでこれが「本物」だよって神様に言われてるみたいなことされたらさ。 「すげ……京也さん」  たまんないよ。 「あ……ン、柚葉?」  したく、なっちゃうよ。 「ン、柚葉」  実家の居間で、昼間は親戚一同がここでクイズ番組に参加しまくってたコタツの中で、今から。 「エロすぎ」 「っ……ン、だって、ぁ、柚葉っ」  セックス、したくなっちゃう。君に抱いて欲しくて、我慢なんてできないよ。 「ン」  首筋にキスをされて、身体が敏感に跳ねそうになるけど、コタツテーブルがあるせいで身動きがとりにくい。 「あんま、肌に、キス、しないで」  その、コタツが暑くて汗かいちゃってるし、同窓会から帰ってきてぐずぐずべそべそしてたから、お風呂とかさ、って、俯きながら口ごもりつつ答えた。 「そ、それと、口にも、あんま、キスしないで」 「は?」 「そ、そのっ、飲んでたから酒臭いでしょ?」  色々恥ずかしいじゃん。臭いのも自堕落なのも、高嶺の花から程遠くてさ。全然俺に見合ってない言葉なんだ。 「たしかに酒臭いけど」 「え! マジで、ちょ、やっぱ、待って。あ、あとでに、今、タンマっ」 「いいじゃん」 「は、どこがっ」 「……すげぇ萌える」  だから、どこがよ。高嶺の花なんでしょ? 綺麗で完璧な年上の恋人なんでしょ?  暑いっつってんのにぎゅって抱き締められて、額をコツンってされて、酒臭いっつってんのに、吐息が触れ合う距離で微笑まれた。こんな俺のどこに萌え要素があるんだか。高嶺の花? 萌え? ないよ。ホントにない。自分から一番遠い言葉な気がする。 「生身の人間っぽい」 「は? ちょっ」  待ってって言ってるのに、うなじにキスをされてお花どころか生々しい人間の俺は、羞恥に肩をすくめた。 「仕事してる時のあんたはすげぇカッコいい。あんなの作れちゃうのなんてすげぇと思う」 「……」 「けど、すげぇ不器用だよね」 「!」 「あと、そそっかしいし、独り言半端ないし。クールビューティーから程遠いくらいに全部顔に出てるし」 「なっ」 「そういうとこも、全部好きだよ」  ズルい。その一言で俺がすぐにおとなしくなると思ってるんだろ。にゃお、って甘えた猫になると思ってるんだろ。 「じゃあ、柚葉のことが好きっていうのも? 出てる?」  そうだよ。大正解だよ。柚葉のくれる「好き」ひとつで俺はおとなしくなる。ニャオニャオ騒ぐことなく、素直にお返事のできるいい猫になれる。 「ねぇ、柚葉」  君にだけは。 「……出てるよ」 「……」 「すげぇ、出てる」 「あ、やだ。ね、臭いってば」  君とは恋がしたい。 「臭くないし」 「ちょ、やだ、汗っ」 「汗で濡れたうなじがエロいから無理。それと」  ちょっと、違うか。 「何? 柚葉」  止められなかったんだ。 「それともう一個顔に出てるよ」 「……」 「今、京也さんが何をしたいのか、すげぇ、顔に出てる」  君に恋をするのを、どうしても止められなかったんだ。 「あっ……ン」  今まで、そういうのはもう御免だって思ってた。もうしない、もう一生しないって思ってた。恋なんてしたくないと思ってたけど。 「柚葉」  ねぇ、本当に、恋って落っこちるんだね。抗うなんてできないくらい、いきなり恋に落ちちゃったんだ。  君のことが好きに、なっちゃったんだ。 「京也さん」 「あ、柚葉っ……ぁ、やだっ」  下着の中に忍び込む不埒な指に翻弄されて、身悶え、仰け反った首筋に甘くしっとりと唇で触れる、汗ばんでる場所ばっかり攻めるなんて、ズルい。 「恥ずかしいってば、ねぇ」 「無理」 「ちょ、無理じゃなくて」  まるで子どもだ。駄々っ子みたいに、年下の恋人にしがみついて、睨みつけてやった。でも、そんなのふてぶてしい年下のクソガキだった君は鼻で笑って、もっとしっかりとうなじにキスをする。高嶺の花だと見上げたばかりの、その花を自分で手折って摘み取るみたいに、きつく抱き締めて閉じ込める。 「柚葉っ……ン、ぁ」  肌に触れる口付けが気持ち良くて、ほら、また落っこちた。君の手の中に、すとんと落っこちて収まって、このまま。 「ぁ、柚葉」  このまま君の手に手折られたいと願ってしまう。 「あんま触んなよ」 「っ」  撫でた股間は硬くて、窮屈そう。ただ掌で上から触れただけで、柚葉が苦しそうに顔を歪めた。そのことにたまらなくそそられて、高嶺の花らしからぬ、余裕ゼロの、少し強引で奪うような、噛み付くみたいなキスをした。

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